帰還者たちは、この世界で再び戦う

七倉イルカ

文字の大きさ
上 下
74 / 83

嘘偽りのない

しおりを挟む
 
 ナッツは、ゆっくりと階段を降りた。
 一段降り、後ろのサキが同じ段に降りて、自身の背後に身を隠すのを待つ。
 さらに一段降りて、続いたサキが、自身の背後に身を隠すのを待つ。
 その二段で降りるのを止めた。
 後一段で床に着く位置である。

 その位置に立ち、目の前で揺れる人間モドキたちの中から、高瀬に似た一体を指さした。
 指の腹を上に向け、ちょいちょいと動かすことで、さらに高瀬モドキを近くに呼ぶ。

 高瀬モドキは、驚いたような表情を作り、ゆらゆらとナッツの前に移動した。
 ナッツは上半身を傾け、高須モドキの耳に口を近づける。
 「全員で、おれの後の人物を叩け」
 囁くように命令した。

 高瀬モドキは、何度も「うんうん」と頷いた。
 一体に伝えることで、他の四体にも伝わるようになっている。
 他の四体の人間モドキも、「うんうん」「うんうん」と頷き始めた。
 頷きながら、ナッツを回り込むように移動し、五体の人間モドキはサキの側面に立った。
 そこで手を伸ばし、サキを叩く。
 軽く持ち上げた両手を、手首から先だけで振る様な仕草である。
 その動きで、サキの肩や背をペチペチと叩く。
 叩くというより、じゃれているようにしか見えない。
 
 ガ、ギギ……?

 プレス機が唸った。
 プレス機、正確にはプレス機に憑いた付喪神は、主人に危害が加えられているのか、それとも、遊びなのかの判断が出来なかったようである。
 それでも念のため、サキは左手を軽く上げてプレス機を制した。
 
 ひとしきり、サキをペチペチと叩いた後、人間モドキたちは、ナッツの正面に戻ってきた。
 感情も知性も無いモドキだが、「いい仕事をしました」とでも言いたげな、清々しい表情を作っている。

 ナッツは、真ん中の高瀬モドキを指さし、その指先を左に動かした。
 指が、高瀬モドキ、中島モドキ、サユリモドキと順番に示していく。
 「お前たち、三人に聞く」
 ナッツがそう言った。

 人間モドキの後ろに座り込んでいる本物の高瀬たちは、黙り込み、何が起こるのかと身を固くしている。

 「お前たちは、後ろの御方に危害を加えたのか?」
 三体の人間モドキは、「うんうん」と首を縦に振った。
 頷きながら「あーー」「あーーうん」「おんおん」と、肯定とも取れる声を発する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

相方は、冷たい牙のあるラーニング・コレクター

七倉イルカ
ファンタジー
(加筆訂正しました)御子神ミホは、気がつくと妙な行列に並んでいた。後ろにいる少年、ソーマに問うと、「転生の行列」と教えられる。なぜか一人だけ、なんのチート能力も与えられず、異世界へ放り出されてしまったミホ。ミホを憐れみ、助けてくれたソーマは、ラーニング能力を得ていた。この世界の住人たち、全ての特技のコンプリートを目指すソーマ。そのために魔境横断、双頭竜征伐、魔闘大会出場と、危ないことばかりに挑むが、能力無しのミホは、ソーマについて行くしかなかった。道中ミホは、この世界の住人に狙われ始める。その理由は……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...