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凶暴付喪神
しおりを挟むギシギシと、さらにプレス機が揺れる。
塗装がパラパラと落ちてくる。
次の瞬間、バキバキと凄まじい音を立て、プレス機が大きく揺れ始めた。
電源が入っていないのに、メイン・シリンダーが稼働した。
巨大なスライドが持ち上がり、金型を取り付ける下テーブルのボルスターに向かって、一気に落ちた。
ガキィンと激しい音が響く。
一度だけではない。
ガキンガキンガキンと、何度も打ち落とされる。
プレス機が怒り狂い、歯噛みを繰り返しているようであった。
バキバキ、ゴキゴキと、金属が歪み、本体が変形し始める。
金属が悲鳴をあげるような軋み音に混じり、ギギギギッギと別の音が生まれた。
いや、音では無い。
声であった。
プレス機が声をあげ始めたのだ。
ガガガガガゴ。
ギギギギギギイ。
スライドをガンガンと上下させながら、プレス機が身を揺すり、咆哮をあげる。
……これほどのものなのか。
ナッツは絶句していた。
リーザがリビングアーマーを操った付喪神とは、桁違いのパワーであった。
憑かれた巨大な工業用機器が、変形し疑似生物化し始めているのだ。
ガゴゴゴギギギ。
プレス機が吼え、側面にある点検口の蓋がはじけ飛んだ。
信じられないことに、そこから、機械の腕が出現する。
素材はどこから引き出てきたのか、シリンダーとギア、プレートガイド、アキュームレーター、変形した側柱のアプライトなどで出来た腕が現れたのだ。
左右に一本ずつ。
手の先には、これも金属でできた指があった。
二本の太いメイン・シリンダーの奥に、黄色い双眸が光った。
300tのプレス機は、機械仕掛けの怪物に変じた。
ガガガガガと吼えながら、金属でできた両腕で床を押し、何とか動こうとするが、設置された部分は固定されたままなので、本体を揺らす事しかできない。
それでも、凄まじい迫力であった。
高瀬たち五人は床に座り込み、口をポカンと開けたまま、プレス機の怪物を見ていた。
「あ、あれ、制御できているんですよね。
勝手に暴れ出したりしませんよね」
ナッツも不安そうな声で、サキに確認をする。
「……次だな」
サキは、それには答えず、今度は右手をフードの中に入れた。
左手の時と同じく、人差し指と中指を唇に当て、いくつかの呪文を詠唱する。
そして、言魂をのせた指先をフードから抜き出し、高瀬たちを真ん中にし、プレス機とは反対側を指さした。
「冥界の王、ヤマラージャよ。
曇りなき鏡の目、慈悲なき鉄の爪を携えて責務をまっとうせよ」
小さく呟く。
サキが指を差した床の部分に、黒い渦が出現した。
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