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 床に触れた雷球は、パリッと音を立てて一気に四方へ広がった。
 床全体に電流が走る。
 通常の電気とは違う。
 青白い波のようにうねりながら、バリバリと放電し、床一面に広がったのだ。
 「ぎゃっ!」
 「ひい!」
 電気に触れた高瀬たちは、床に倒れ込むと、身を突っ張らせて悲鳴をあげた。

 電圧は、電気を流す圧力でありV(ボルト)で表される。
 電流は、流れる電気の量でありA(アンペア)で表される。
 電力は、電圧と電力から得られる仕事量でありW(ワット)で表される。

 電圧と電流は正比例し、死の危険がある電圧は42V以上と言われる。
 しかし、実際の危険性は、電圧より電流の大きさで決まる。
 静電気などは、バチッと音があがれば5000V以上、放電現象が起これば1万V以上の電圧が掛かっている。
 しかし、これほどの高電圧が掛かっているのに、静電気で死亡する可能性は殆どない。
 これは、放電時間が10億分の1秒という、あまりに短い時間のため、流れる電流もごくわずかなためである。(他に抵抗等も関係する)

 電流は、3mA以下では、チクチクと刺されるような痛みを感じ、それ以上になると、はっきりとした痛みを感じる。
 10mAになると、その痛みは耐えがたいものとなり、15mA以上になると、筋肉が収縮して体が硬直する。
 50mA以上で呼吸困難に陥り、100mAになると心肺機能が停止する。

 ナッツが落とした雷球は、2mA~12mAていどの電流を断続的に流す。
 致命的では無いが、この電気の波に飲み込まれる間は、細かい針に刺され、筋肉が勝手に捩じれる様な激痛に襲われる。
 高瀬たちは、痛みと恐怖で悲鳴をあげてのたうち回り、巻き添えを食った人間モドキたちも「あああ」「あぼばああ」と呻きながら、前衛的なダンスのように、手足を突っ張らせていた。
 
 「な、何てことをすんだよ」
 「おれたち、あんたに何もしてねえだろ」
 電気の波が消え去ると、高瀬と中島が、脅えた目でナッツを見て、震える声をあげた。
 小馬鹿にした表情は、完全に無くなっている。

 「おれの師匠を馬鹿にしたのは、どこのどいつだった? ん?」
 ナッツは再び手の平を上に向けた。
 雷球が出現する。
 「わ、悪かった!
 そんなつもりはなかったんだ!」
 「やめてよ! あたし関係ないし」
 「謝るから、もうしないから!」
 高瀬たちは、恐怖に引きつった顔で、必死に訴える。

 ナッツは、左手でフードを後ろに流した。
 満面の笑みを五人に向ける。
 「おれが、そんな言葉を信じるような善人にみえるか?」
 ナッツは笑顔のまま、二つ目の雷球を床に落とした。


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