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埒外
しおりを挟む「!」
一階フロアでは、高瀬たちが小さく声をあげた。
ナッツが落下すると思ったのである。
が、ナッツは空中に立った。
すでに『紋様』を組み、見えない階段を敷いていたのである。
一段、二段、三段と、階段を降りて行く。
「……は、はははは。手品かよ」
「コケ脅しだよな」
笑う高瀬たちだが、ナッツが降りてくるにつれて、声に勢いが無くなる。
「ねえ、あんた」
サユリが声を掛けた。
虚勢を張っているのか、高慢な態度を崩していない。
「あれ、気持ち悪いから、さっさと消しちゃってよ」
五体の人間モドキを指さし、顔を歪めて命令した。
人間モドキたちは、現れた場所から移動せず、その場で、ゆらゆらと体を揺らしている。
最初よりも、手足の動きが大きくなり、顔の表情のレパートリーも増え始めていた。
さらにパクパクと開閉する口からは「あ、あああ、ば、あ」と、声らしきものが漏れ聞こえている。
「あたしは、あんな顔をしないわよ!
早く消してッ!」
ヒステリックになったサユリの言葉を無視し、ナッツは立ち止った。
あと三段で床に降り立つ位置である。
「フードを取れよ。
フードを取って、ここまで来いよ」
高瀬がナッツを睨み、唸るように言う。
「お前ら、勘違いしているようだから、教えてやるよ」
ナッツは『紋様』を組み、右手の平を軽く上に向けた。
チリチリと小さな音を立て、青白い雷球が手の平の上に出現する。
「なッ!」
「待てよ! お前、それ……」
「冗談はやめてよ!」
雷球に不穏なものを感じたのか、高瀬たちは数歩後退した。
「おれは、防衛省の管理部に所属してない。
分かるか? フリーの帰還者なんだよ。
だからね、新法の埒外にいるんだ」
ナッツは優しく告げながら、雷球を床に落とした。
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