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新法解釈
しおりを挟む一般人からすれば、魔族同様、帰還者も恐怖の対象なのである。
得体の知れない能力を持つ人間兵器に見えるのであろう。
侵攻してくる魔族を撃退するには力強いが、能力の矛先が、何かの拍子に、自分たちに向かってくる可能性もある。
一歩間違えば、人類対帰還者という構図が出来るかも知れない。
それを回避するための新法である。
が、今回の件で、井沢から聞いた言葉とは相反していた。
むしろ真逆である。
『二』はともかく、『一』に関しては、サキもナッツも、当面は管理部に所属するつもりは無く、井沢はそれを了承した。
『三』に関しては、多少の死者が出ても、揉み消すとまで伝えてきたのだ。
……そりゃ、そうなるよな。
新法を無視した井沢の判断は当然であった。
同級生を自殺に追い込んだ五人の高校生と、勇者アイクに匹敵する能力者のサキを天秤に掛ければ、誰であっても、サキを取るであろう。
現状、新法は建前、内実はケースバイケースといったところなのであろう。
そもそも、そう言った臨機応変さが無ければ、帰還者たちも日本政府に協力を拒むかも知れない。
「降りてこなきゃ、管理部に連絡しちゃうよ」
「帰還者のあんたに暴行されたって言えば、どうなっちゃうかなあ」
「家族まで特定されて、大炎上だぜ」
ナッツは品性の無い挑発を続ける、高瀬たちを見下ろした。
立場上、手を出せない教師や警官を煽っているのと、同じノリなのだろうか……。
「師匠、あの小太りのヤツがいるでしょ」
と、ナッツは背後のサキに声をかけた。
「安藤か」
「あいつは他の四人に比べ、ちょっと違うようだけど……」
今もナッツを野次るようなことは無く、気まずそうに下を向いている。
「どうします?」
ナッツが問うと、少し間を置いてサキが答えた。
「……元々は、安藤が高瀬たちにいじめられていたんだ。
中学三年のとき、見てられなくなって、高瀬たちを注意したんだよ。
それから、あいつらのいじめの標的は、私になったんだ……。
安藤は、もう自分がいじめの対象になることは嫌だったんだろうな。
高瀬らに、私をいじめる方法を色々と提案してくれたよ。
酷いことを……」
「もう思い出さなくていいです」
ナッツはサキを遮った。
「師匠……」
ナッツは背中のサキに向かって、幾つかの提案をした。
「……もちろん、できるけど」
「じゃあ、合図を送りますから」
そう言い残したナッツは前に出た。
「……ナッツ」
サキが不安そうな声を出す。
「とりあえず、見ててください」
ナッツは腰ほどの高さのある錆びた手すりに両手を掛けると、ひょいと飛び越えた。
飛び越えた先は、何もない二階の高さの空間である。
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