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新法
しおりを挟む「あのサキが師匠? あんたの?」
「マジ? マジか?
じゃあ、サキは、本当に転生界にいたのかよ」
ナッツを見上げる高瀬と中島が、驚いた表情になった。
「……サキが、師匠、か。
ふ~~ん、あいつを師匠とか言ってるようじゃ、あんた、大したこと無いんだろ」
高瀬の顔から驚きの表情が消え、替わりに嘲るような笑みが広がった。
中島も「違ェねえな」と、下衆な笑いを浮かべて言う。
「かっこつけて、『カクゴしろ~~』とか言ってたけど、サキの弟子とか、笑えるんですけど~~」
「ほらほら、フード上げてよ。アップで撮ってあげるから」
サユリと久美も、人間モドキを見たときの恐怖を忘れたのか、挑発するようにスマホのカメラを向けてきた。
「降りて来いよ!」
「あ! 弟子じゃなくて、もしかして、サキの彼氏?」
「サキの恥ずかしい秘密を聞かせてあげるよ」
高瀬たちが、声を大きくして騒ぎ始める。
……馬鹿なのか、こいつら?
「……!」
高瀬たちの騒ぎにナッツが呆れた顔になったとき、背中に鋭い痛みが走った。
サキである。
サキは今、小型のカメレオンワームに包まれ、不可視になった状態で、ナッツの背後にいるのだ。
見えない状態になってなお、五人の視界に入ることを避けているのである。
今の加害者たちの言葉で、悪夢を思い出し、思わずナッツの背に爪を立てたのだろう。
「師匠」
ナッツは痛みに気付かないふりをし、サキにしか聞こえないていどの声で呼び掛けた。
「あいつら、馬鹿なの?
複製人形を見せてやったんだから、オレが帰還者だってことは理解してんだよね。
それなのに、どうして、おれを挑発できるの?
危機感が無いの?」
「井沢から、新法のことは聞いていないのか」
背中から、サキの言葉が返ってきた。
「新法?」
ナッツは聞き返した。
「通称、帰還者法って言われる新しい法律だよ。
小田原防衛戦のあと、何人かの帰還者が正体を公けにしたあたりで、政府が公布したんだ。
手際が良かったから、このあたりも事前に準備しておいたんだろうな」
「どんな法律なんですか?」
「幾つかあるけど、要になるのは……」
サキは三つの新法を口にした。
一、帰還者は、原則として防衛省転生者管理部に所属することを義務付ける。
二、帰還者は、電子機器などにより、24時間体制での監視対象となる。
三、帰還者は、いついかなる場合においても、一般人に対して攻撃的能力を行使してはならない。
……ああ、そう言うことか。
ナッツは納得した。
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