帰還者たちは、この世界で再び戦う

七倉イルカ

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廃工場Ⅱ

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 「最近の研究じゃ、昏睡状態の期間と能力の習得は、あまり関係ないかもって言われてるんだよ」
 安藤が女子の二人に顔を向ける。
 その隙に、近づいた中島が安藤の太腿に、また蹴りを叩き込んだ。
 「痛いって! なにすんだよ!」
 安藤が顔を歪めて抗議する。

 「よし、分かった」
 高瀬が言う。
 「もし、サキが転生界に行っていたとしようか。
 んで、目覚めて帰還者になったとしよう。
 だったら、おれたち感謝状もんじゃね?
 あんなクソ役立たずを帰還者にして、人類の戦力に貢献したんだぜ」
 そう言った高瀬は、操業を停止している工場の敷地内へと入り込んだ。

 正門からである。
 操業を停止し、もう何ヶ月も過ぎているのであろう、正門には、鋼鉄の車輪がついた、左右にスライドするタイプの鉄扉があったが、片方が半分開いたままになっていた。
 高瀬は、そこから工場の敷地内へと入ったのだ。
 それに中島が続く。

 「え、どこだよ、ここ?
 入っていいのか?」
 安藤は不安そうにキョロキョロするが、それでも高瀬、中島に続いた。

 「廃墟?」
 「廃墟探検ってヤツ?
 動画取ろうか」
 そして、サユリと久美も敷地内へと入り込んだ。

 正門の横には、使われていない守衛室があり、その向こうはトラックが荷物の積み下ろしをする広いスペースがあった。
 風で集められたビニール袋や落ち葉が、隅に溜まっている。
 大きな倉庫があり、錆びた一台のフォークリフトが置き捨てられていた。

 高瀬は、その横を通り抜け、ドアが開いたままになっている建屋の中へと入った。
 中は広く、天上が高い。
 高い天井からは、等間隔に照明が吊るされている。
 
 「ここ、何の工場?」
 サユリが、今更のように周囲を見回した。
 「金型工場だろ。
 プレス機があるし」
 安藤が巨大なプレス機に顔を向けて言う。
 近くには、部品を運ぶ数台のカゴ台車が転がっている。

 「目の覚めたサキが帰還者になっていたとしたら……」
 高瀬の言葉に、四人が顔を向けた。
 建屋の奥を眺め、背を向けていた高瀬が振り返った。
 「もう一回、修行してこいって、送り返せばいいんじゃねえの」
 笑顔で言う。

 「……それって」
 安藤が顔を強張らせた。

 「ひでーな、高ちゃん。
 また追い込むってこと?」
 中島が笑いながら言う。
 
 「今度はテンセー界じゃなくて、あの世に行くかもね」
 「ウケルーー」
 サユリと久美は、声をあげて笑っている。

    ◆◇◆◇◆◇◆

 建屋の二階の高さには、見学や管理を兼ねたギャラリーと呼ばれる通路が設置されている。
 そこに立つナッツは、右耳に人差し指を当て、階下の五人を見下ろしていた。
 集音の『紋様』を刻み、五人の会話を盗み聞いていたのだ。
 「……こいつら、死んでも治らないって種類の人間だな」
 ナッツは吐き捨てるように言った。

 
 

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