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廃工場Ⅰ
しおりを挟む◇◆◇◆◇◆◇
「ねえねえ、どこに行くの?」
「この先って、何もないんじゃないの?」
サユリと久美が、前を歩く三人に声を掛けた。
「まあ、いいじゃねェか。
たまには、こう、新しい場所の空気でも吸ってみたい的な?」
高瀬が笑いながら振り返る。
身長が高く、顔立ちも整っているが、笑みにどこか品が無い。
「そうそう、この道の先に、新たな発見があるんだよ」
横に並ぶ中島も、適当なことを言う。
「そう言えばさあ……、あいつ、目が覚めたって話、聞いたか?」
高瀬と目が合った安藤は、不安そうな上目遣いで言った。
五人は、先頭に高瀬と中島、真ん中に安藤、そして後ろにサユリと久美が並ぶ形で歩いている。
「あいつって誰だ?」
振り返った中島がヘラッと笑った。
分かっているのに、とぼけている。
「羽森だよ。
羽森サキに決まってるだろ」
安藤が棘のある声で返す。
「お前、ビビり過ぎ!」
中島は体ごと振り返ると、いきなり蹴りを放った。
安堵の左太腿に、バシッと音を立てて蹴りがヒットする。
じゃれあうように笑っているが、手加減の無い蹴りである。
「痛ッつ!」
安藤が顔を歪めて声をあげた。
「あ、悪い、痛かった?
ごめんごめん」
気遣う顔で近寄った中島は、今度は、安藤の肩に向かってボクシングの真似事のように拳を放ち始めた。
「ごめん、ごめん、ごめん」
一発、二発、三発と、遠慮のない力で当てていく。
「痛い! やめろよ!
痛いって言ってるだろ!」
たまらず安藤が大きく逃げ、それを見た高瀬が「ははははは」と楽しそうに笑った。
「でもさ、ちょっとマズイんじゃないの?」
サユリが言う。
「どこが?」
高瀬が眉尻を下げ、トボけた顔をしてみせた。
「目の覚めたサキが、おれたちにいじめられて自殺したって言い出すってことか?
そんなもん、もう話がついてるじゃん」
「だよな。
反省してま~~すって、おれたち五人で謝ったじゃん」
高瀬の言葉に、中島も続けた。
「担任も教頭も校長も『二度とするなよ』とか偉そうなことを言って、それで終わりになっただろ」
「目が覚めたサキが何を言っても、『前途ある五人の学生の将来を潰すような、非人道的なことをしてはならんのです』とか言って、また校長センセーがかばってくれるさ。
結局は、手前ェの保身なんだろうけどさ」
そう言った高瀬は、交差点を右に曲がった。
中島、安藤、サユリと久美も、何の疑問も持たない様子で高瀬についていく。
五人は、トラックが行き来する道から外れて、交通量の少なくい方へと向かっていった。
「おれが言ってるのは、そのことじゃないよ」
中島に殴られた肩をさすりながら、安藤が不満そうな顔で言う。
「そのことじゃないなら、どのことなんだ?
お前は、いちいち回りくどいんだよ」
中島がパンチを繰り出すふりをしながら、軽いステップで安藤に近寄る。
「意識が戻った羽森が、帰還者になっていたらどうするんだよ」
安藤は嫌がる顔をみせ、中島から、さらに距離を取った。
「えーー、それある?」
「あいつが昏睡状態になってから、どれぐらい?
一ヶ月も無いんじゃないの?
その間、テンセー界とかに行っていたとしても、魔法なんか覚えてこれないっしょ」
サユリと久美は、小馬鹿にしたような顔を見せた。
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