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復讐の範囲

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 「ただし」と、ナッツは付け加えた。
 「大枠は、おれに仕切らせてくださいね」
 「……それは、井沢の指示か?」
 サキが冷ややかな目を向けてくる。

 「そうですよ」
 隠しても仕方が無いので、ナッツは素直に答えた。
 「なるべく、揉み消せる範囲で暴れてくれと頼まれました」
 ナッツは空気を和ませようと、答えた後で「ははははは」と笑う。

 「……あの五人を殺すなってことなのか」
 「ははは……は、は」
 和まない。
 ナッツは中途半端な笑みだけを残し、返答をさけた。
 
 井沢に話を通したのは二日前である。
 サキを自殺に追い込んだ五人に対して復讐をする。
 ナッツがそう伝えると、井沢はしばらく黙り込んだ。
 井沢から受け取ったスマホを使っての会話である。
 使用している電話番号は、盗聴が不可能と教えられていた。
 
 「転生界で得た能力で、そのような行為をすることには疑念が……」
 「能力を個人的な復讐に利用したと、第三者に知れれば……」
 「人々が帰還者に対して反発心を持つ可能性が……」
 「裁きは司法に……」
 ナッツは、このような言葉が返ってくるのかと思っていた。
 穏便に済ましたい。
 だから、サキを押さえろ。
 これをオブラートに包んだ言葉である。
 しかし、井沢の返答は、ナッツの想像と真逆であった。

 「無関係な人間から、死者は出さないようにしてもらいたい」
 「分かった……」
 「分かった」と応じてから、井沢の返答は、とんでもない内容だと気付いた。
 これはつまり、関係者は殺してもいいと言っているのだ。

 「師匠を追い込んだ、五人は?」
 ナッツは念のために聞いてみた。

 「あれは確実な関係者だろう」
 井沢は、あっさりと答えた。
 「あれは殺してもいい」と答えたのである。
 しかも、その口調から、関係者という言葉の範囲は、まだ広そうであった。

 「参考までに、あんたの考える関係者の範疇に入る人間を教えて欲しいんだけど」
 ナッツは平静を装って聞いてみた。

 「サキくんに対する暴行、脅迫の事実を知りながら、積極的な介入をしなかった、当時の担任を含めた学校関係者。
 五人以外、一度でも、暴行、脅迫に関わった生徒。
 無関心、無関係の立場を取り続けたクラスメイト。
 加害者家族。
 ……それぐらいか。
 あとは、サキくんの捉え方次第だろう」

 「……」
 言葉が出なかった。
 場合によっては、数十人規模で殺害しても良いと言っているのだ。
 無茶苦茶である。

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