51 / 83
駆け引き
しおりを挟む「凄いな」と、アイクが感心した声をあげた。
「音だろ。
テーブルを叩く音に何かを仕込んだのか?」
ナッツの手をあっさりと見抜いた。
「正解。
音の中に『紋様』を溶かし込んだんだよ。
殺意を向けたら、三半規管が震えて平衡感覚が狂う固着性のリズム。
今は二人とも、シェイカーの中に放り込まれたように目が回ってるぞ」
ナッツは指先でテーブルを叩くことを止めた。
それでもコツコツコツという音は鳴りやまない。
「……それは、どうなってんだ?」
アイクが、さすがに驚いた顔になった。
「秘密」
「ナッツくん」
床でもがき続ける部下を無視し、井沢が口を開いた。
「君が言いたいことはわかる」
さっき、『お前ら、おれを殺そうとしたのか?』とナッツが口にした言葉に対して、その意味を理解していると言ったのだ。
「『違う』とだけ答えさせてもらう」
「ウソをつくと、舌を引き抜く地獄の魔物を召喚してもいいか?」
「構わないよ」
井沢は口の端で、ちょっとだけ笑った。
ナッツはアイクを見た。
「アイク。
あんたはどうするんだ?
こいつらに協力するのか?
……と言っても、もう協力しているみたいだけどさ」
「おれは、家族が守れればいいんだよ。
『命』という意味だけじゃない。
『暮らし』や『将来』『幸せ』も含めてな。
侵入してくる魔族が、それらをぶっ壊そうしてくるなら、日本政府と協力して撃退するさ」
アイクの答えは、シンプルなものであった。
「サキくんにも、少しいいかな」
井沢が口を挟んだ。
「……」
「きみがどういうつもりで、私たちを拒絶し、魔族と手を組むと言っているのかは分からない。
ただ、きみの力が魔族側につくと、とてつもない被害が出るだろう。
このような言い回しは好きでは無いが、君の大切な人たちも困ることになるんじゃないのかね?」
「大切な人などいない」
「いるさ」
井沢はサキの答えを否定した。
「アイク。そして、アイクの家族。
ナッツくん。そして、彼の家族……」
井沢のひどい搦手に、サキは黙り込んだ。
そのとき、井沢の背後で信じられないことが起こっていた。
由美香が何度も足を滑らせながらも、壁にしがみつくようにして立ち上がり始めたのだ。
「くっ、かっ」と呻き、何とか体のバランスを取ろうとしている。
右手には、まだ拳銃を握っていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
相方は、冷たい牙のあるラーニング・コレクター
七倉イルカ
ファンタジー
(加筆訂正しました)御子神ミホは、気がつくと妙な行列に並んでいた。後ろにいる少年、ソーマに問うと、「転生の行列」と教えられる。なぜか一人だけ、なんのチート能力も与えられず、異世界へ放り出されてしまったミホ。ミホを憐れみ、助けてくれたソーマは、ラーニング能力を得ていた。この世界の住人たち、全ての特技のコンプリートを目指すソーマ。そのために魔境横断、双頭竜征伐、魔闘大会出場と、危ないことばかりに挑むが、能力無しのミホは、ソーマについて行くしかなかった。道中ミホは、この世界の住人に狙われ始める。その理由は……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる