帰還者たちは、この世界で再び戦う

七倉イルカ

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コツコツコツ

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 「……これから、どうするつもりなんだ?」
 ナッツに問うサキの声は、強張っていた。
 映像越しとは言え、リアルタイムで、自分を自殺にまで追い込んだ加害者たちを見たのだ。
 軽くパニックになっているようであった。
 
 サキが受けたのは、いじめと言えるものではない。
 暴行、傷害、窃盗、器物破損、名誉棄損、脅迫、恐喝、強要、強盗、監禁と、明確な犯罪行為であった。
 これらが中学生から始まり、高校になっても続いたのだ。
 加害者の悪意は、ついには自殺教唆にまでエスカレートし、絶望したサキは、大量の薬を飲み、昏睡状態に陥り、転生界へと転移したのである。

 話を聞いたナッツは、サキには黙って、その事件のことを調べてみた。
 サキが自殺未遂を起こした後、ようやく学校関係者が動いたが、それは加害者への断罪ではなく、「いじめ」や「未成年」という都合のいい言葉で、事件を隠蔽することだけであった。
 結果、サキを自殺未遂に追い込んだ主犯格の五人は、事件後、たった三週間で、屈託のない笑顔を見せ、学園生活を楽しんでいるのである。

 ナッツは、あのとき、サキの作った空間で、井沢が口にした言葉を思い出した。
 『我々の望みは、魔族を撃退し、転生界の人類と手を結び、以前の平和な日常を取り戻すことだ……』
 その日常は、多くの人にとっては幸せなものだったのかも知れない。
 しかし、サキにとっては、地獄そのものであったのだ。
 「断る」と拒絶したのも、サキにとっては、当然のことだとナッツは思っていた。

 あの後、「お前ら、おれを殺そうとしたのか?」と、ナッツも井沢たちに対して、敵意を向けた。
 空気が凍りついた中、コツコツコツと、ナッツが指先でテーブルの表面を叩く音だけが小さく響く。
 そして、戸倉と由美香が動いた。

 おそらく戸倉の方が、コンマ何秒か早かったと思う。
 スーツの内に右手を差し込み、拳銃を抜き出そうとしたのだ。
 が、指が拳銃のグリップに届く前に、上半身が捩じれたように傾き、テーブルの角に肩をぶつけると、そのまま座っていた椅子を後ろに蹴り飛ばすようにして、戸倉が床に倒れた。
 「くッ! が!」と呻きながら、床で身をくねらせてもがく。

 由美香は、拳銃を抜き出すところまではいった。
 しかし、後は戸倉と同様であった。
 派手に椅子から滑り落ち、横倒しになった姿勢で、「んッ! そんな!」と驚愕の表情を浮かべながら、床を斜めに蹴り続ける。
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