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横浜市
しおりを挟む平日の午後。
ナッツとサキは、横浜市にある郵便局の屋上にいた。
集配業務を行う郵便局のため、敷地は広く、建物は三階建ての立派なものである。
屋上には幾つかの室外機が並んでいる。
メンテナンスをする業者以外、出入りを想定されていないタイプの屋上のため、柵やフェンスは無く、外縁部が30㎝ほど高くなっているだけであった。
その外縁部の近くで、3人掛けのソファーに身を預け、ナッツはくつろいでいた。
郵便局の前を走る国道や歩道から目を向ければ、充分に見つかるような位置である。
しかし、誰一人、ナッツを気にする様子は無い。
それも当然で、誰の目にも見えていないのだ。
ナッツたちは、サキが召喚したカメレオン・ワームの中に入り込んでいるのである。
体表で光の屈折率を反射させ、取り込んだものごと透明化する不定形の召喚獣で、隠密行動時や野外でのシェルター代わりに使うことが多い。
魔王戦のとき、リーザが召喚したカメレオン・ワームは、電話ボックスていどのサイズであったが、サキが召喚したカメレオン・ワームは、ワンルームマンション一部屋ほどの大きさがあった。
ナッツが座るソファーだけではなく、簡易ベッド、食糧庫、冷蔵庫、武器ボックス、衣装棚などが収まっている。
一応、身を隠しての張り込みをしているのだが、信じられないほど快適であった。
ナッツはチラリと隅に視線を走らせた。
衣装棚と武器庫に隠れるような場所に簡易ベッドがある。
そこで、サキがこちらに背を向け、抱き枕にしがみつくようにして横になっていた。
眠っているわけではない。
落ち着かないのか、時折、ごろごろと動いている。
ナッツは、正面に目を戻した。
四車線の国道を間にして、私立高校の正門が見える。
そろそろ、そこから出てくるであろう、五人の生徒を見張っているのだ。
もっとも、カメレオン・ワームの透明な肉壁越しに、肉眼で見張っている必要はない。
すでに風貌や個々の生体信号は入手しており、五人のうち、誰か一人でも外に出てくれば、センサーが反応するようになっている。
ただ単に、手持無沙汰なため、学校の校門を眺めているのだ。
「ナッツ」
後で声がした。
振り返ると、簡易ベッドから降りてきたサキが立っていた。
表情は暗い。
不機嫌に拗ねたような顔をしている。
「座ります?」
「いや、ここでいい」
ナッツはソファーを端に移動しようとしたが、サキは、その場から動かなかった。
屋上の端から、なるべく後ろに下がり、外部から見えない位置に固執しているように見える。
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