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交渉決裂
しおりを挟むさすがに、部屋の空気が重くなった。
すでに帰還者の中で、戦死者が出ていたのである。
「……死ねばどうなる?」
答えは予想できたが、それでもナッツは聞いてみた。
「きみたちが転生界で死に、現実世界に帰還したように、現実世界で死ねば、再び転生界に戻ることが出来るのかと言うことだな。
出来ない。
それが答えだ。
現実世界での死は、素体が生命活動を停止すると言うことだ。
普通に死ぬだろう」
普通に死ぬ。
そもそも、死ぬこと自体が普通ではなく、非日常的な事態じゃないのか?
ナッツには、井沢の返答はヘタクソなジョークのように聞こえた。
「転生界は、今、どうなっているんだ?」
サキが質問を変えた。
「いや、今と言う言い方だとおかしいのか。
転生界は、魔王の死後、どうなったんだ?」
「それは、おれも知りたい」
ナッツは、気を取り直してサキの質問にのった。
リーザやエルシャたちは、平和になった世界で暮らしているのかが知りたかった。
「魔王討伐戦を生き残った転生者はいるはずだ。
討伐戦後に死んで、こっちに帰還していないのか?」
「確認できていない。
現在のところ、魔王討伐戦を生き延びた転生者の中で、帰還した者はいない」
「……そうか」
「こちらから、コンタクトを取る方法があればいいのだが」
ナッツが落胆すると、井沢は少し申し訳なさそうな顔をした。
これまで見せたことの無い表情である。
……ああ、それだ。
ナッツは、心に引っ掛かっていたものが何かを理解した。
……ふざけんなよ、こいつら。
顔を伏せ、顔に怒気が現れそうになるのを抑える。
「もう一度言う。
我々の望みは、魔族を撃退し、転生界の人類と手を結び、以前の平和な日常を取り戻すことだ。
どうか、力になってもらいたい」
井沢が頼み込んだ。
「以前の平和な日常か……」
サキは冷たい目で返した。
「……断る。
お前らと手を組むぐらいなら、攻め込んでくる魔族と手を組むさ」
井沢の顔からスッと表情が消えた。
「夏樹くん」
今まだ黙っていた由美香が、ナッツを呼んだ。
師匠のサキを説得しろと言うような目をしている。
顔をあげたナッツは、背もたれに大きく背を預けた。
不機嫌さを隠さず、右手の人差し指で、コツコツとテーブルの表面を叩く。
「お前ら、おれを殺そうとしたのか?」
ナッツは井沢、戸倉、由美香を見た。
ナッツの言葉の意味を理解したのか、井沢の顔に驚きは無かった。
交渉は決裂した。
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