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七人
しおりを挟む「結論を急ぐな。
まだ、聞くことがある」
サキが言った。
「これは申し訳ない。
つい急かしてしまった。
どうぞ、質問を続けてくれたまえ」
井沢が謝罪し、質問をうながした。
「……なぜ、前もって分かっていたんだ?」
「分かっていたとは?」
井沢が問い返す。
「転生界からの魔軍による攻撃だ。
小田原戦の際、日本政府は、『転生界からの攻撃を予期していた』と発表したんだろ。
そして、実際に攻撃に対する準備をしていたわけだ」
「……その疑問に対する回答を持っているのは、桐野首相、与党三役、防衛大臣、統合幕僚長までだろう。
残念ながら、我々には知らされていない」
「知らされていない……、か。
便利な言葉だな」
サキが皮肉めいた笑みを浮かべた。
「噂はある」
「噂?」
「預言者の存在だ」
「予言者ね……。
予言者の予知によって、日本政府は税金を湯水のように使って、魔軍に備えていた訳か」
サキは小馬鹿にするように言った。
予言者を信じていないことが明確に分かる。
そして、ナッツも預言者など信じていなかった。
何度か予言や未来予知の話を聞いたことはある。
この予言の書の「世界を覆う黒い霧」とは、疫病の世界的流行を表していたのだ。
「もつれあって落ちる鳥」とは、株価の暴落を表していたのだ。
「うごめく巨獣」とは、先月の地震を表していたのだ……。
いやいやいやいやいや。
それはないだろ。
本当に予知や未来視が出来るなら、「黒い霧」とかどーでもいいから、「疫病が世界中で流行る」と書けよと。
鳥なんて比喩はどーでもいいから、「株価の暴落」と書けよと。
どーしても、うごめく巨獣としたいなら、西暦何年何月、どこの国のどこの都市で巨獣がうごめくのかを書けよと。
事が終わった後で、預言書を引っ張り出してきて、「この文節は~~」と言われても、ナッツには、ただのこじつけにしか思えなかった。
これは、現実世界だけではなく、転生界でも同じであった。
預言者と自称する者には会ったことがあるが、明確に当たったと言える、意味のある予言に出くわしたことは無かった。
「信じられないのは当然かも知れない。
ただ、この噂には続きがある」
「続き?」
「帰還者は、いずれ預言者と会い、この戦いの本当の理由を告げられる、と……」
井沢は、アイク、サキ、そしてナッツを等分に見た。
「噂が真実なら、きみたちは預言者に機会を得られるかも知れない」
「その予言者とやらに、会った帰還者はいるのか?」
ナッツが言う。
「いると聞いている。
『最初の十二人』と呼ばれる帰還者の中で、七人が預言者に会ったと言う話だ」
「……七人か。数が足りないな。
残りの五人は、預言者に嫌われたのか」
「預言者と会う前に、戦いで亡くなったよ」
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