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疑念

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 おれは……。
 と、ナッツは頭を整理しようとした。
 半年前、交通事故で昏睡状態になり、転生界へ飛ばされた。
 そこで二年を過ごした後に、魔王戦で死亡し、元の世界に戻ってきた。
 元の世界は、転生界の魔族から攻撃を受けていて、おれは……。
 おれは、この世界で、また戦うことになるのか?
 始まりは、交通事故と聞かされたけど、事故の記憶はない……。
 ショックで記憶を失っているのか?
 本当に……、事故だったのか?
 ……いや、違う。問題は事故そのものじゃない。
 始まりだ。
 この流れは、どこから始まったんだ?

 ナッツは、アイクが壁に描いた、現実世界と転生界の時間経過を表す図に目を向けた。
 二本の平行線の間で交差する線を見る。
 特殊な時間経過……。
 時間の流れはあてにならない……。
 本当に、始まりは交通事故でいいのか?
 
 「……ナッツ。
 そこまでにしておいてやれ」
 アイクに声をかけられ、ナッツは、壁の図からアイクに視線を移動させた。
 ……?
 自分の考えに入り込み過ぎて、何を「そこまで」にしておけばいいのかが、一瞬、分からなくなっていた。

 「おれたち帰還者は、魔軍撃退の切り札みたいなもんだ。
 正確な数が漏れれば、魔族につけ入る隙を与えることになっちまう。
 十分の一ってのも、単なるおれの憶測だよ」
 「あ……、うん。
 いいよ、別に」
 会話を思い出し、ナッツは頷いた。
 帰還者の人数を問いただしていたのだ。
 その途中で黙り込んだため、井沢に無言の圧力を掛けていると誤解されたのである。

 テーブルの向こうの井沢は、表情を変えていない。
 しかし、ナッツを見る目には、何かを探る様なものが感じられた。

 「ほかに質問はありますか?」
 戸倉が言う。
 他の質問は、何だ、えっと……。
 聞きたいことは、まだあったはずなのに、ナッツは、戸倉の言葉に、うまく反応ができなかった。

 「……そもそも、やつらはどうやって、こっちの世界に現れているんだ?」
 そう言ったのは、ナッツではなくサキである。
 「我々も調査をしていますが、現時点では判明していません。
 ですが、推測でならお答えできます」
 戸倉の言葉に、サキは何も言わない。
 無言で、その推測を話せと命じているようであった。
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