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帰還者の数
しおりを挟む「そもそも魔族側に、独裁者と共闘、協力しようとする意志は無かったのでしょう。
共闘、協力という概念があるのかさえ疑問です。
汚染された者たちは、パニックになった護衛や親衛隊の火器で処分されました。
トップを失った独裁国家は、国民を縛り付けていた恐怖政治が崩れ、国内全土で内戦が起こる事態になっています」
戸倉の言葉に、ナッツは該当しそうな独裁国家を思い浮かべた。
たしかに、政権交代を狙ったクーデターではなく、トップを含めた首脳陣が、いきなり消失してしまえば、国が分裂崩壊してもおかしくなさそうであった。
「……海外にも転生者、いや、帰還者はいるのか?」
「います。
ただ、日本ほどではありません」
「そう言えば、転生界で、たまに出会った転生者は、性別や年齢はともかく、全員、日本人だったよな」
ナッツは転生界での日々を思い返した。
「……そもそも、転生界からの帰還者って、何人いるんだ?」
「防衛省のオフィシャル・サイトでは、現在、帰還者の数は約800人と公表しています」
「800!?」
「ウソに決まってるだろ」
驚いた俺に対し、アイクが笑いを含んだ声で言う。
「ウソ?」
800人人も驚いたが、あっさりとウソと断言することにも驚いてしまう。
「800人もいると公表すれば、国民はそこそこ安心できるだろ。
逆に、魔族側からすれば、800人もいるなら、そうそう簡単に攻め込んではこられないだろ。
まあ、実際の帰還者は、その十分の一ていどじゃないのか」
アイクが、公式発表の裏を推測する。
「魔族側も、アイクさんのように考えているかも知れませんね」
戸倉が笑みを浮かべて言う。
「そして、日本の戦力を侮り、力押しで攻め込んできたところを、800人の精鋭帰還者たちで徹底的に粉砕し、殲滅する作戦なのですよ」
「……くくくくく」
戸倉の説明に、アイクは低く笑いだした。
戸倉も笑みを浮かべたままである。
「タヌキの化かし合いは置いといて、実際、どれぐらいの帰還者がいるんだ?」
ナッツは井沢に顔を向けて問う。
「それは最高機密になっている。
申し訳ないが、答えられない」
井沢は小さく首を振った。
「曲がりなりにも、帰還者管理部と名乗っているぐらいなんだから、人数ぐらいは把握しているんだろ」
「……」
無言になった井沢をいじりたくなったナッツは、さらに突っ込んだ。
「こんな施設があるってことは、昨日までのおれみたいに、まだ帰還していない人間も保管し、その数を把握して……」
「……」
井沢は無言のままである。
そして、ナッツも無言になった。
自分の言葉に、何か引っ掛かるものを感じたのだ。
『まだ帰還していない人間』
『保管』
『数を把握……』
『…………』
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