帰還者たちは、この世界で再び戦う

世界状況

　「四国では、先月上旬、土佐湾から侵攻してきた魔族軍を撃退できず、高知市は壊滅状態。
　政府は、住人をすべて避難させたのち、米軍の協力を得て、焦土作戦を行いました」
　「焦土作戦って……。
　焼き払っちまったのか、高知市を」
　ナッツは、思わず聞き返した。
　「苦渋の決断です。
　しかし、それも効果は限定的で、高知の大半は、魔族の勢力圏となり、四国は緊張状態が続いています」

　「海外は？」
　と、ナッツは聞いた。
　「ほかの国も、魔族の攻撃を受けているのか？」

　「魔族による軍事侵攻を受けたのは、アメリカ、台湾、イギリス、インド、ノルウェー。
　インドとイギリスは、現在も交戦状態です。
　意図的な交戦ではなく、海上、もしくは沿岸部で、魔獣と遭遇したという事案は、未確認も含め、全世界で数百件になります。
　そのような中、もっとも懸念されていたのは……」
　戸倉は一呼吸置いた。
　「幾つかの独裁国家が、魔族を取り込み、現実世界での勢力拡大を狙ったことです」
　「転生界の魔族と同盟関係になろうってことか？」
　「そういうことです。
　当事国は、当初、魔族と平和的な関係の構築に乗り出すのだと、世界に訴えていましたがね……」
　ナッツの質問に、戸倉は苦笑交じりに答えた。

　「……でも、それが可能なら、目的はともかく、友好関係を築くべきなんじゃないのか？」
　ナッツは反論した。
　「少なくとも選択肢の一つとして、魔族側と対話のパイプぐらい作っておいても損じゃないだろ」
　転生界でも、魔王の支配地域はともかく、辺境では、魔族、魔獣と共存、友好関係を築いている地方都市や小国は幾つもあったのだ。
　苦笑いで閉ざすような道ではないはずである。

　「話の通じる相手であれば、そうかも知れません。
　ですが、魔族を取り込もうとした独裁国家は、あっと言う間に独裁者と首脳陣、さらに甘い汁を吸っていた親族たちまでもが汚染されてしまいました」
　「汚染？
　魔族側に取り込まれたってことか？」
　「いえ、魔族に洗脳、脅迫され、好き勝手に操られるようになったなどという状態ではありません。
　魔族と接触した独裁国家の首脳陣は、人間ではない、腐った肉塊のような物に変形し、言葉どころか、あらゆる意思の疎通が不可能になったのです。
　オブザーバーとして、派遣された国連の職員は、元大統領だった独裁者に、頭から食べられましたよ」
　「……」
　ナッツは言葉を失くした。
　そういう状況は、転生界でも聞いたことが無い。