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銃火器の効果

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 「小田原のワイバーンは、魔族が防御魔法をかけていたんだろ」
 ……光の神々よ。大いなる慈愛で、汝の御子たちを守り給え……
 ナッツは魔王の間に突入する寸前、ハンクがパーティにかけた防御魔法を思い出した。
 魔族の中にも、魔法を使う者はいる。
 父と母に擬態していた魔族も、防御魔法をかけていたんだろうな……。
 そこまで考えて、ナッツは違和感を覚えた。
 いやいや、銃弾を何発叩き込まれたんだ?。
 それなのに、あの二体は、ほぼノーダメージだったじゃないか。
 そんな強力な防御魔法って、どうなんだ?

 「もちろん、我々も、その可能性について考え、後日、帰還者たちの中から、防御魔法を得意とする魔導士、神官、高僧らに聞き取りをしました」
 ナッツが考え込む間に、戸倉が続ける。
 「ですが、3000の集団に対し、あれほどの長時間、強力な防御魔法をかけ続けることは、たとえ魔王であっても不可能だと言うことでした」
 「……別の理由があるってことか」
 ナッツがつぶやいた。

 「まあ、何にせよ、あの防衛戦で魔族を撃退できたことは大きかったな。
 初戦に勝ったからこそ、その後に続いた戦いでも、国民の支持を得ることが出来たんだからな」
 アイクがそう言う。
 「小田原戦の後も、攻め込んできたんだよね?」
 「オレが、こっちの世界にいる間に、漁船が襲われたり、沿岸や河口の町が襲われたりしたことは何度もあったな。
  東京湾で、けっこうな規模の海戦もあったぞ」
 「漁船に東京湾……。
 小田原を攻めた魔軍は、相模湾から現れたんだよね。
 っーことは、魔族は、基本、海から来るってことでいいのか?」
 「一応、そう考えられているみたいだな。
 だから、千代田区の国会議事堂は閉鎖されたぞ。
 あの場所は、結構、海に近いんだよ。
 東京湾の晴海ふ頭から、直線で5㎞ていどの距離だからな。
 今は、もっと内陸に入り込んだ、三鷹市の施設で国会を開いているんだよ」
 「マジか……」
 「天皇皇后両陛下も、今は皇居を離れているはずだよ」
 アイクは、「そうだよね」と、戸倉に確認を取る。

 ……どうなってんだ。
 ナッツは唇を小さく舐めた。
 戸倉とアイクの説明が具体的になるほど、非現実感が増してくるようであった。

 「一番、被害が大きかったのは?」
 「高知県ですね」
 ナッツの質問に、戸倉が即答した。
 「四国か……」
 海から敵が来るって言うんなら、海岸線の長い島国の日本は、厳し過ぎるだろ。
 非現実感の中に、妙にリアルな暗雲が垂れ込めてくるようであった。

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