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ワイバーン

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 「『最初の十二人』……」と、アイクが口にした。
 「このとき、小田原防衛線に参戦した帰還者たちは、後で、そう呼ばれるようになったよ」

 「現実世界で、最初に正体を明かした十二人ってところか」
 「正確には違いますね」
 ナッツの言葉を戸倉が否定した。
 「この日より以前から、秘密裏に政府に協力していた帰還者も多数います。
 なので、『国民の前で正体を現した、最初の十二人』といったところですかね」
 「……とても有意義な情報をありがとう」
 ナッツは、面倒臭いなあという目で戸倉を見た。

 「現れた十二人の中に、エンチャントを使える人物が四人もいたことは幸運でした」
 ナッツの視線を気にする風もなく、戸倉が続ける。
 エンチャントとは、本来、魅了するという意味の言葉だが、この場合は、武具や道具に、属性や特別な効果を付属する魔法や儀式のことである。
 「銃弾や砲弾に、火や雷の属性をつけたってことか?」
 「ええ、その通りです。
 こちらの世界の火器は、どういう訳か、転生界から侵攻してきた魔族、魔獣に対して効果が薄いのです。
 自衛隊の火力だけでは、難しい戦いでした」

 ナッツは、両親に擬態して現れた魔族に対し、由美香の撃ち込んだ弾丸が、ほとんど効果をあげていなかったことを思い出した。
 「戸倉。
 それこそ、もっと正確に説明しろ」
 井沢が命じた。
 その言葉に、ナッツは戸倉に視線を向ける。

 「承知しました。
 正確に言うなら、効果が薄い場合が多いと言うことです。
 例えば、小田原に侵攻してきた魔族軍には、十数頭のワイバーンが確認されました」
 ワイバーンとは、ドラゴンに似た魔獣である。
 幾つかの種類が存在し、サイズは2~8mほど。
 訓練すれば、人や魔族に懐き、命令を聞くようにもなるが、ドラゴンのように知性と言えるほどのものは無い。
 頭部はトカゲに似ており、空を飛ぶことができる。
 飛翔に使用する翼は、背中から生えてはいない。
 前肢の指の骨が長く伸び、その間に広がる指間膜、また、そこから体に繋がる体側膜を使って飛翔するのだ。
 これはコウモリの羽に近い。

 「このときに確認されたワイバーンは、自動小銃の弾を浴びせても効果は薄く、110mmの対戦車弾を命中させて、ようやく仕留めることが出来ました。
 ワイバーンに対してだけではなく、他の魔族や魔獣に対しても同様に、通常火器によるダ攻撃は、不自然なほど効果を与えることができませんでした。
 しかし、後に愛媛県の宇和島で発見されたワイバーンは、同サイズながら、警察官の放った拳銃弾五発で死亡が確認されました」
 「……それは、あれじゃないのか」
 ナッツは思いついたことを口にした。
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