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魔軍侵攻
しおりを挟む立ち上がった戸倉は、ナッツに愛想の良い笑みを向けた。
「相沢夏樹くんが、交通事故で昏睡状態となったのが、10月15日。
約半年前ですね。
すでに、呉原から聞いた話と重複するかも知れませんが、そのあたりから説明させていただきます」
ナッツは軽く手をあげて、了承を伝えた。
戸倉は、わざわざナッツから夏樹と言い換えたが、昏睡状態になったときは、確かに、まだナッツではなく、夏樹である。
昏睡後、転生界でナッツと呼ばれるようになったのだ。
細かいのか、大雑把なのか、よく分からない。
ナッツは、この戸倉という男をつかみきれないでいた。
最初は、ただの能天気で空気の読めない兄ちゃんかとも思っていたが、失言や軽薄そうな態度も、すべて計算ずくの行動のようにも感じられる。
呉原由美香にしても、頼りなさそうなところも目立つが、戦闘モードに入った時の判断力は冷徹で、動きは鋭い。
防衛省に所属していると言っていたことから、二人とも公務員なのであろうが、井沢を含めて、油断のできない面子である。
「アイクさん、サキさん。
お二方も、質問等がありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
そう言った戸倉は、由美香と同じく、6月下旬に起きた、新潟県庁の火災から説明を始めた。
複数の頭を持った巨大な怪蛇、ヒュドラが関わっていたという事件である。
当然ヒュドラは、こちらの現実世界の生き物ではない。
転生界の怪物である。
伝説の水棲生物、クラーケンが関わったとされる、能登沖での航空自衛隊戦闘機墜落事件。
転生界の亜人が捕獲された、横浜の薬品倉庫爆発事件。
愛媛県山中での、地滑りによる集落壊滅事件……。
このあたりまでは、ナッツも、ネットのニュースで見た記憶がある。
ただ、政府の隠蔽工作が機能していたため、通常の事故として発表されていた。
そもそも、その時期に、異世界から攻撃を受けていると言われても、ナッツになる前の夏樹では、何の冗談かと思い、信じることはできなかったであろう。
「夏樹くんが昏睡状態となってから十日後の10月25日の午前8時、転生界からの侵略を公表するきっかけとなった大事件が、神奈川県で発生しました。
魔族による、大規模な小田原侵攻です」
「小田原に!?」
ナッツが思わず聞き返した。
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