帰還者たちは、この世界で再び戦う

七倉イルカ

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魔王を倒した者Ⅱ

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 「石造りの床をぶち破って、血まみれの戦士が現れたんだ。
 てっきり、魔王が地獄から召喚した、狂戦士かと思ったよ。
 ところが、狂戦士は、おれじゃなく、魔王に斬りかかっていった。
 おれは、幻覚でも見ているのかと、自分の目を疑ったよ。
 どれぐらい戦っていたのかな。
 気が付くと、狂戦士の剣が、魔王の胸を貫いていた」

 一呼吸置いて、ナッツは断言した。
 「アイクや由美香ちゃんの話を聞いて確信した。
 あの狂戦士は、アイク・アモンだ」

 「……で、魔王、ジェーマインは絶命したのかい?」
 戸倉が聞いてきた。
 「倒れたけど、まだ息はあった。
 でも、すぐに死んだように見えたよ。
 そして、体が光り始めたんだ」
 ナッツは、ジェーマインの最期を思い出しながら答える。

 「おれは、その光に巻き込まれて意識を失った。
 たぶん、そこで死んだんだろうな。
 もちろん、狂戦士と化していたアイクも逃げ延びたとは思えない」

 「ひとつ聞きたい」
 と、井沢が言う。
 「その魔王が発した最後の光は、自爆……、テラゾラスのような自爆呪文を魔王が唱えたために起こったのか?」

 !!
 ナッツは、井沢の質問にギョッとした。
 まるで、あの場にいたかのような質問である。

 ……どうする?
 ……この情報は、今後の交渉材料に取っていた方がいいかも知れないぞ?
 そう考えるナッツに対して、井沢が続けた。
 「信用してほしい。
 我々は、人類の未来のために戦っているのだ」
 井沢の目は真剣である。

 ナッツも覚悟を決めた。
 「人類の未来のため」などと言う、胡散臭いセリフを真剣な目で口にしたのだ。
 逆に、信じる価値はある。

 「……自爆呪文じゃない。
 あれは、何者かが介入した、強制自爆だ」
 はっきりと答えた。

 由美香が何か言おうとしたが、井沢に強い視線を向けられると黙り込んだ。
 戸倉も何も言わない。
 「どうして、それが分かる」だの、「魔王自身が言ったのか」だの、「誰が聞いた?」、「聞こえる位置にいたのか?」だのと聞かれると、ほころびが出て、矛盾した話になってしまう。
 井沢は、それを抑え込んだのであろう。

 「……ナッツ。
 正直、おれは、魔王との戦いを何も覚えていない。
 今の話は、本当のことなのか?」
 当のアイクだけが、納得できずに食い下がってくる。
 
 「狂戦士化している間は、記憶が消し飛んでるだろ」
 サキが、その言葉でアイクを黙らせた。
 「ナッツがそうだと言うなら、私は納得するさ」
 サキが肩をすくめた。

 「さて……。
 話の流れで、こっちが話すばかりになっちまったな。
 だけど、そもそもは、お前らから情報を聞き出す場だったはずだ」

 「その通りだ」
 サキの言葉に頷いたのは井沢である。
 しかし、立ち上がったのは戸倉であった。

 「では、私が、転生界からの侵略に対する、日本の現在の状況を説明させて頂きます」
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