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戦争終結・Ⅱ
しおりを挟む崩れた壁の向こうに、それが遠望できた。
魔王殿である。
魔王殿の最上部は、まばゆい光球に包まれていた。
一つではない。
光球の中から次々と光球が生まれ、輝きを増して、魔王殿の上部を包み込んでいく。
その場にいた、人間、魔族、巨人、ドラゴン、亜人間、魔獣、半獣人……、すべての者が動きを止め、禍々しいほどの光に包まれていく魔王殿を見上げた。
そして、次の瞬間、大気に割れたと錯覚するほどの爆音が響き、魔王殿の最上部は吹き飛んだ。
真上に抜けた爆風が、遥か上空の雲を一瞬で搔き消すほどの爆発である。
「アイクだ……」
観測兵の言葉が引き金になった。
「……倒したぞ」
「……勇者が、魔王を倒したんだッ!」
「ジェーマインを討ったぞ!」
歓声が沸き起こる。
「まだですッ!」
コハルが鋭く制した。
「全戦場へ、勇者アイクが、魔王ジェーマインを討ち果たしたと報せてください。
魔王の精神支配から解放された、精霊、巨人族、ドラゴン族、上位魔人は、戦場から離脱をはじめるはずです。
こちらの兵力は、攻撃を続行しようとする魔族、亜人間に向けてください。
連携を取って、戦線を押し上げて……、退却する敵の追撃は無用です」
「分かった」と応じた総司令が、伝令を走らせるように命じる。
「そして、負傷者の救護に、力を注いでください……」
傾いたままの床。指揮台に手をついて立っていたコハルが、バランスを崩しそうになった。
「コハル!」
そのコハルの肩を引き寄せたのは、カリーナムの王子である。
「救護が必要なのは、そなたであろう」
「……いえ。めまいがしただけです。
問題はありません」
コハルが穏やかな顔で首を振る。
「このザルバルルーザを襲っていた、巨大な怪物も退散したようです。
王子。今こそ、前線に出て、兵を取りまとめ、反撃を……」
「分かった」
「私は、ここで総司令の力となります」
「無理をするな。
この先も、そなたの力が必要だ」
そう返した王子は、最後にコハルの眼を見詰め、その白い手を握ると、小さく頷いた。
近衛兵を呼びながら、王子は退室した。
それを見送ったコハルは、膝をついた。
「コハル殿!」
驚いた司令官がコハルを支える。
「……いかん!
回復魔法を使える者を呼べ!
今、すぐにだ!」
司令官の言葉を拒絶するように、コハルは小さく首を振った。
「複数の破片が背中を貫いています。
王子に悟られぬよう、止血の魔法だけを唱えていましたが……。
もう、回復魔法は効かないでしょう……」
「防御魔法を唱えたのではなかったのか。
そうか、王子への防御に……」
総司令は、悲痛な顔になった。
「楽しかった、この世界……。
思い出が、あふれて、くる……。
私は……、この世界の力に、なれましたか?」
「もちろんだ」
総司令は、自身の無力さに拳を握りしめた。
「あなたたち転生者の力が無ければ、我々は勝てなかった……。
この勝利は、あなたたちのおかげだ」
司令官の言葉を聞くコハルの視界が暗くなった。
そして、言葉も聞こえなくなった……。
「コハルさんが覚醒したのは、十日前のことです。
そこで、私たちは、魔王を討ったのが誰なのかを知りました」
由美香が話を終えた。
……おれたちのいないところで、ジェーマイン討伐物語が完成しているじゃん。
……これはもう、このまま黙っていた方がいいかも知んないな。
ナッツは無表情を作り、心の中で深く溜息をついた。
話を聞き終えたサキだが、まだ何も納得できていないという様な目をしたままであった。
そして、アイクに問う。
「……アイク。
瀕死の状態で、魔王の間までたどりつけたとしよう。
しかし、その状態で、ジェーマインを討てるのか?」
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