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戦争終結・Ⅰ
しおりを挟む輝追石は、所持している人間の生体反応とリンクしている。
持ち主が怪我などで体調異常を起こせば、水晶球に映る光は、点滅をはじめ、重篤化するに伴い、点滅は激しくなる。
当然、持ち主の生体反応が消えれば、光も消えることになる。
円形の台座に映し出された、魔王殿の立体映像。
その最上部あたりで、たった一つだけ残った光点は、激しく明滅しはじめていた。
勇者アイクが、魔王に届かずに落ちる……。
そうなってしまえば、人類の敗北は必至であった。
全員が明滅する光点に目を奪われ、凍りつくような緊張感が満ちる。
そのとき、指令室が大きく揺れた。
突然の揺れに、衛兵や観測兵たちが、思わず声をあげて転倒する。
固定されていなかった、魔道具や書物も散乱した。
「観測兵ッ!」と、原因報告を求める声が響く。
揺れは、一度で収まらなかった。
しかも、異常なのは、一度目で大きく斜めに傾いだまま、指令室が揺れ続けていることである。
統合本陣そのもの、いや、本陣を背に乗せたザルバルルーザ自体が、傾いているようであった。
「どうなっている!」
「ここにきて、本陣への魔法攻撃か!?」
参謀たちの声が上がる。
「天空の翼よ、大気の精霊の仲介により、鋭き双眸の共有を叶えよ!
鷹の眼!」
コハルが、遠視の魔法を発動させた。
あらかじめ外に放っていた、猛禽類が見ている映像を投影する魔法である。
指令室の一角に、ザルバルルーザを斜め上空から捉えた、『鷹の眼』の映像が映し出された。
「こ、これは一体!」
映像を見たカリーナムの王子が、呻くように言う。
『鷹の眼』は、地中から現れた、何か巨大なものが、真横からザルバルルーザに密着し、引っくり返そうとしている姿を映し出していた。
それは、灰色のコールタールを全身に被った巨人の上半身のようにも見えた。
ただし、頭を思わせる盛り上がった部分は、見えているだけで、四つも存在した。
腕に関しては、無数と言っていいほど生えている。
本体とおぼしき、巨大な物体のあちこちから、大小様々な腕のような物体が伸び、ザルバルルーザにつかみ掛かっているのだ。
腕に関節らしき場所は見当たらず、先端に指のようなものも確認できない。
腕ではなく、触手という方が近い。
「なんだ、この怪物は」
指令室にいる人間の誰一人として、ザルバルルーザに襲い掛かっている怪物の正体を知るものはいなかった。
「……ヘカトンケイルか?」
総司令がつぶやいた。
ヘカトンケイルは、五十の頭と百の腕を持つといわれている大地の巨人である。
しかし、巨人にしては、あまりにも禍々しく異質な姿をしていた。
「ああ、魔導砲が!」
観測兵が悲鳴をあげた。
怪物から伸びた太い触手が、ザルバルルーザの背に設置していた魔導砲の長大な砲身に絡みつき、捻じ曲げたのだ。
暗殺パーティがジェーマインを討ち、脱出を図った後、魔王殿に撃ち込み、戦局を決定的なものにするはずであった魔導砲である。
映像の中で、魔導砲が折れた瞬間、本陣が大きく揺れ、司令部の天井が裂けた。
破壊音と喚き声が重なり、その中でコハルは防御魔法を唱える。
怪物の触手が叩きつけられたのか、崩壊する天井に続いて、壁が破裂するように吹き飛んだ。
「……ア、アイクは」
呻き声と土煙が立ち込める指令室で、コハルは魔王殿の立体映像を見た。
奇跡的に、立体映像は形を保っている。
しかし、最上部をかたどるワイヤーフレームは消失していた。
アイクの生存を表す光点も消えている。
……これは?
映像の意味することが理解できないコハルの耳に、土煙の向こうから、誰かの声が聞こえた。
「見ろッ!」
声の聞こえ方が、さっきまでとは違う。
天井と外壁が大きく崩壊したため、声が外へと抜けていくのだ。
外の空気が流れ込み、土煙が流れていく。
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