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魔王殿の迷宮
しおりを挟むアイクとサキは、静かに語った。
潜入口は四ヶ所あったが、密かに入り込めるというだけである。
四ヶ所のどこから潜入しても、その先が、どのようなルートに繋がっているのかは、まったく分かっていなかった。
北口から潜入した、光翼戦士団、リベック・ファミリー、裏柳生一党は、闇を苦にせず進んでいったが、200メートルも進んだあたりで立ち止った。
大きな分岐に、ぶつかったのである。
「ここで別れよう。
我らは、右を進む」
裏柳生7名は、やや上りとなっている右の通路を選んだ。
アイクが、無言で右拳を伸ばす。
ヤマトから来た7人の武芸者は、アイクの拳に、それぞれの左拳をぶつけ、右の通路に入っていった。
共に直進した光翼団とリベック一家も、次の分岐で別れた。
魔王殿に潜入したのは、合計で12パーティ。
どのパーティも、魔王の間まで届けば、死に物狂いでジェーマインを討つ覚悟でいた。
しかし、魔王殿の深部へと進むにつれて、パーティそのものが分断されていった。
閉ざされた迷宮での分断を狙ったトラップは、防ぐことが困難であった。
一列でしか進めない細い通路で、天井が落ちてくる。床が崩れる。壁がせり出す。
これだけでパーティは二分される。
引き離された仲間を探そうにも、分断トラップに続いて、毒ガスや爆炎、通路崩壊、大掛かりな通路そのものの移動が発生し、再合流は困難を極めた。
そして、単独行動を強いられた時点で、魔王の支配下にある、上位魔族、精霊、魔獣、獣人たちが、途切れることなく襲い掛かってくる。
回復も思うようにできぬ中、全パーティのメンバーたちは、魔王軍に各個撃破されていった……。
「一人になった私は、トラップと奇襲を警戒するため、前後に分身を配置して進んだ。
だけど、結局、呪符もマジック・ポイントも尽きちまった。
かなり上層階まで、進んだはずだったんだがな。
最後は、魔族を集めるだけ集め、伝播系の崩壊魔法でもろともに塵となってやったよ」
サキは、凄まじい自身の最期を話した。
「アイク」
サキがアイクを呼ぶ。
「あんたが魔王の間までたどり着き、たった一人で、ジェーマインを討ったと聞いた。
どうやって倒したんだ?」
ナッツは、サキの目を探った。
……うん。疑ってるね。
アイクを疑っている目だ。
少なくとも、完全に信じている目をしていない。
アイクはどう答えるのかと、ナッツも興味津々になった。
「……実は、はっきりと覚えていない」
アイクは困ったように言った。
「俺は、上級魔族を捕まえては、魔王の間までの道のりを聞き出し、盾として使い、魔王殿を登っていった。
あと、二層か三層で、魔王の間に着くところまでは、おぼろげに覚えているが……。
白い光に包まれたところで、記憶は完全に途切れている」
「し、白い光ね……」
ナッツの顔が強張る。
どう考えても、ジェーマインの自爆に巻き込まれたのだ。
アイクが死んだのは、ちょっと俺にも責任がありそうじゃん……。
「……それだけで、アイクが討ったことになっているのか?」
サキは、納得がいかないように言う。
「いくつか理由があるのです」
答えたのは、由美香であった。
どうも、由美香は、アイクのファンのようにみえる。
「暗殺パーティのメンバーは、全員が輝追石を身につけていたと聞いています」
「マーカーか……。
私も渡されたな」
サキが頷いた。
輝追石は、ナッツも知っていた。
魔法処理を行うことにより、対になっている水晶球を使って、位置を特定できるのだ。
離れた場所から位置を確認する、発信機のようなものである。
「各自に渡された輝追石は、それぞれの生体反応とリンクしています。
そして、次々と輝追石の光が消えていく中、最後まで、輝追石の反応を確認できたのが、勇者アイクだったそうです。
そのとき勇者アイクは、魔王の間の一層下まで来ていたのです……」
サキが、つまらなさそうな顔になり、小さく舌を鳴らした。
「私の方が、先に落ちたのか」
ナッツは、由美香に質問をした。
「由美香ちゃん。
その話は誰に聞いたの?」
由美香は、答える前に視線を井沢に移した。
それは、返答の許可を得ているようであった。
井沢は何も言わず、由美香は、ナッツの質問に答えた。
「そのとき、本陣にいた転生者です」
そして伝聞ではあるが、ジェーマイン討伐戦、最終局面に入った、多国籍軍統合本陣のようすを話し始めた。
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