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暗殺パーティ
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『剣武大会や魔物討伐ミッションに参加している姿を見たことがあります。
十代で、剣聖ボクデン・ツカハラを超えた話も聞きました』
そう言ったナッツに対して、アイクは『ん、ああ。まあね』と、落ち着かない素振りを見せたのだ。
なるほどね……。
ナッツは納得した。
あれは、気まずくて仕方なかったからなのであろう。
「ちなみに、この話、井沢さんたちには、もう伝えているよ」
アイクがそう言った。
「それで、誰も驚かなかったってわけか。
おれ一人だけが、『おかしなことに気付いたー-!』って騒いでたんだよね。
かっこワル……」
ナッツは、げっそりした顔になって言った。
「いや、ナッツの指摘のおかげで、おれもおかしなことに気付いたぞ」
アイクの視線は、サキに向いていた。
「ほう。私に、おかしなことがあると言いたそうだな」
サキは平然とアイクの視線を受け止める。
睨み合っているわけではない。
しかし、二人共、相手の出方を探っているようであった。
「おれが、十代で剣聖を超えたという話。
これが、ボクデン先生の創作だと言うことは、無論、極秘事項だ。
門下生でも、知る人間は、数えるほどしかいない」
アイクの言葉に、サキは小さく「ふっ」と笑った。
アイクの言う、おかしなことの内容が分かったのであろう。
「なあ、サキ……さん?」
転生界13年のキャリアに敬意を表したのか、アイクは『ちゃん』から『さん』へとシフトした。
「『ちゃん』でいいよ。
子ども扱いじゃなく、女性扱いなら『ちゃん』でもいいんだよ」
サキが肩をすくめる。
「了解」と、アイクは頷き、そして続けた。
「サキちゃんは、剣聖超えの話がウソだと、誰から聞いたんだ?」
「何を言っているんだか」
サキが「くくく」と、低く笑った。
「魔王殿への突入寸前に、あんた自身が私たちに、おもしろおかしく話したんだろ」
笑いながら、アイクをからかうように言う。
……分からない。
ジェーマインを討ったとは言え、討伐隊に参加していなかったナッツにとって、突入寸前と言われても、イマイチ、話が見えてこなかった。
「師匠、アイク」
ナッツは、二人に声をかけた。
「ジェーマインの討伐戦だけど、おれは、正規のルートじゃ、参戦していないんだよ。
まずは、その辺りを詳しく教えてくれないか?」
「いいよ」
アイクから、説明が始まった。
「魔王軍の攻勢が、全土で激しさを増していたことは知っているよな。
人類側は、組織だった抗戦の限界点が迫っていることを感じていた。
二年以内に、列強国の軍は崩壊し、後は希望の無いゲリラ戦に移行すると、予想されていたんだ。
そこで、各国の首脳部が秘密裏に連絡を取り合い、大反転攻勢に出る作戦が練られた。
これがジェーマイン討伐作戦だ。
おれが所属していた、ヴァナス王国も当然参戦した。
ただし、おれたち光翼団は、特別任務を与えられた。
多国籍連合軍が、魔族軍と交戦している間隙を突き、魔王殿に潜入し、ジェーマインを暗殺するという任務だ。
もちろん、任務を引き受けた。
十を超える腕利きのチームが選出され、始まった大会戦の最中、魔王殿へと潜入したんだ」
そこまで話したアイクは、少し間を置いてから、再び口を開いた。
「おれは、現実の世界へ戻り、再び家族に会いたかった……。
現実の世界へ戻る方法を聞いたことがあるか?
おれが聞いた限りでは、死ぬか魔王を倒すか、そのどちらかしかないと言うことだった。
これが本当かどうかは、分からなかった。
転生界から現実の世界へ戻り、また転生界へ戻ってきた人間などいなかったからな。
試しに死ぬというのはリスクが高すぎる。
やり直しがきかないからな。
ならば、最初に試すのは、魔王ジェーマインを倒すことだ。
だから、ジェーマインの暗殺任務は、願ってもないことだったんだ」
そこまで話してから、考え込むようにアイクは口を閉じた。
「私たちに声を掛けてきたのは、ロバルディアの王族だ」
アイクが黙った後、サキが口を開いた。
「でも、ロバルディアに仕えていたわけじゃない。たまたま、あの国に滞在していただけという話だ。
そもそも私たちは、人間と魔族の戦いに関わっていなかった。
生業が盗賊だからな。
魔族とやり合うより、人間に追われることの方が多かったんじゃないかな」
サキは当時のことを思い出したのか、少し笑った。
「かと言って、人間社会が崩壊しても困る。
結局、仲間内で相談をし、討伐戦に参戦することにしたんだ。
むろん、私たちも暗殺チームとして、魔王殿へと潜入した」
最後の言葉に、アイクが反応した。
どの暗殺チームのメンバーであったのかを思い出そうとするかのように、改めて、サキの顔を見詰める。
アイクの視線に構わず、サキが続けた。
「魔王殿への潜入口は、北にひとつ。北東にひとつ。西にふたつ。南にひとつの四ヶ所。
私たちは北口から潜入することになった。
同じく北口から潜入することになったのは、裏柳生一党とアイクの率いる光翼戦士団だったわけだ」
「……まさか」
アイクがサキを凝視する。
十代で、剣聖ボクデン・ツカハラを超えた話も聞きました』
そう言ったナッツに対して、アイクは『ん、ああ。まあね』と、落ち着かない素振りを見せたのだ。
なるほどね……。
ナッツは納得した。
あれは、気まずくて仕方なかったからなのであろう。
「ちなみに、この話、井沢さんたちには、もう伝えているよ」
アイクがそう言った。
「それで、誰も驚かなかったってわけか。
おれ一人だけが、『おかしなことに気付いたー-!』って騒いでたんだよね。
かっこワル……」
ナッツは、げっそりした顔になって言った。
「いや、ナッツの指摘のおかげで、おれもおかしなことに気付いたぞ」
アイクの視線は、サキに向いていた。
「ほう。私に、おかしなことがあると言いたそうだな」
サキは平然とアイクの視線を受け止める。
睨み合っているわけではない。
しかし、二人共、相手の出方を探っているようであった。
「おれが、十代で剣聖を超えたという話。
これが、ボクデン先生の創作だと言うことは、無論、極秘事項だ。
門下生でも、知る人間は、数えるほどしかいない」
アイクの言葉に、サキは小さく「ふっ」と笑った。
アイクの言う、おかしなことの内容が分かったのであろう。
「なあ、サキ……さん?」
転生界13年のキャリアに敬意を表したのか、アイクは『ちゃん』から『さん』へとシフトした。
「『ちゃん』でいいよ。
子ども扱いじゃなく、女性扱いなら『ちゃん』でもいいんだよ」
サキが肩をすくめる。
「了解」と、アイクは頷き、そして続けた。
「サキちゃんは、剣聖超えの話がウソだと、誰から聞いたんだ?」
「何を言っているんだか」
サキが「くくく」と、低く笑った。
「魔王殿への突入寸前に、あんた自身が私たちに、おもしろおかしく話したんだろ」
笑いながら、アイクをからかうように言う。
……分からない。
ジェーマインを討ったとは言え、討伐隊に参加していなかったナッツにとって、突入寸前と言われても、イマイチ、話が見えてこなかった。
「師匠、アイク」
ナッツは、二人に声をかけた。
「ジェーマインの討伐戦だけど、おれは、正規のルートじゃ、参戦していないんだよ。
まずは、その辺りを詳しく教えてくれないか?」
「いいよ」
アイクから、説明が始まった。
「魔王軍の攻勢が、全土で激しさを増していたことは知っているよな。
人類側は、組織だった抗戦の限界点が迫っていることを感じていた。
二年以内に、列強国の軍は崩壊し、後は希望の無いゲリラ戦に移行すると、予想されていたんだ。
そこで、各国の首脳部が秘密裏に連絡を取り合い、大反転攻勢に出る作戦が練られた。
これがジェーマイン討伐作戦だ。
おれが所属していた、ヴァナス王国も当然参戦した。
ただし、おれたち光翼団は、特別任務を与えられた。
多国籍連合軍が、魔族軍と交戦している間隙を突き、魔王殿に潜入し、ジェーマインを暗殺するという任務だ。
もちろん、任務を引き受けた。
十を超える腕利きのチームが選出され、始まった大会戦の最中、魔王殿へと潜入したんだ」
そこまで話したアイクは、少し間を置いてから、再び口を開いた。
「おれは、現実の世界へ戻り、再び家族に会いたかった……。
現実の世界へ戻る方法を聞いたことがあるか?
おれが聞いた限りでは、死ぬか魔王を倒すか、そのどちらかしかないと言うことだった。
これが本当かどうかは、分からなかった。
転生界から現実の世界へ戻り、また転生界へ戻ってきた人間などいなかったからな。
試しに死ぬというのはリスクが高すぎる。
やり直しがきかないからな。
ならば、最初に試すのは、魔王ジェーマインを倒すことだ。
だから、ジェーマインの暗殺任務は、願ってもないことだったんだ」
そこまで話してから、考え込むようにアイクは口を閉じた。
「私たちに声を掛けてきたのは、ロバルディアの王族だ」
アイクが黙った後、サキが口を開いた。
「でも、ロバルディアに仕えていたわけじゃない。たまたま、あの国に滞在していただけという話だ。
そもそも私たちは、人間と魔族の戦いに関わっていなかった。
生業が盗賊だからな。
魔族とやり合うより、人間に追われることの方が多かったんじゃないかな」
サキは当時のことを思い出したのか、少し笑った。
「かと言って、人間社会が崩壊しても困る。
結局、仲間内で相談をし、討伐戦に参戦することにしたんだ。
むろん、私たちも暗殺チームとして、魔王殿へと潜入した」
最後の言葉に、アイクが反応した。
どの暗殺チームのメンバーであったのかを思い出そうとするかのように、改めて、サキの顔を見詰める。
アイクの視線に構わず、サキが続けた。
「魔王殿への潜入口は、北にひとつ。北東にひとつ。西にふたつ。南にひとつの四ヶ所。
私たちは北口から潜入することになった。
同じく北口から潜入することになったのは、裏柳生一党とアイクの率いる光翼戦士団だったわけだ」
「……まさか」
アイクがサキを凝視する。
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