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異常な時間律

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 「上の線が、この世界での時間の流れ。
 下の線が、転生界での時間の流れとしようか。
 どっちの線も、左に行くほど過去になる」
 アイクは上の横線の端に『現』と書き、下の横線の端に『転』と字を入れた。
 
 「ジェーマイン討伐戦の日はここだ。
 とりあえずの基準だ」
 『転』の線の右端近くに印をつけ、『J』と書き入れた。
 「討伐戦で死んだおれが目覚めた日はここだ」
 『J』から上にラインを伸ばしたアイクは、『現』の線に繋げ『ア』と書き入れた。

 「サキちゃんとナッツが目覚めた日は、こんな感じか。
 この『ナ』は今日だな」
 アイクは『J』から二本目のラインを伸ばし、『ア』の位置から少し右に繋げた。そこに『サ』と書き込む。
 さらに三本目のラインを伸ばし、『サ』から、さらに右寄りに繋げ『ナ』と書き込んだ。
 
 「そして……」
 アイクは『ナ』の位置から、左に半円のラインを伸ばし、再び『現』の線に繋げた。そして半円のラインに『六ヶ月』と書き込む。
 「ナッツが意識不明になった日をこことする。
 六ヶ月前だ。
 そして、おれが意識不明になったのは……このあたり」

 『ア』から、同じく左に半円のラインを伸ばし、再び『現』の線に繋げた。
 しかし、そのラインは短い。
 ナッツの半円ラインの半分である。
 アイクは、そこに『三ヶ月』と書き込んだ。

 「ここから、転生界で過ごした時間に繋げると……」
 アイクは、『ナ』から伸びた半円形のラインの左端から、左斜め下にスッとラインを引いた。
 その線が『転』の線へとつながる。
 そして、そこから右に向かって半円のラインを『J』の位置まで引いた。
 そこに『二年』と書き込んだ。

 同じように『ア』から伸びた半円形のラインの左端から、左斜め下にスッとラインを引いた。
 ラインは、『ナ』から伸びたラインと交差し、『転』の線へと繋がる。
 『ナ』から繋がるラインより左、過去へと繋がっている。
 そこにアイクは、半円のラインを『J』へと伸ばし、『三年半』と書き込んだ。

 現実世界の時間の流れを表す『現』の線。
 転生界での時間の流れを表す『転』の線の間に、右に傾いたXのような線が書き込まれたのだ。

 壁に描かれた略図を見ながら、ナッツは由美香の言葉を思い出した。
 ……そう言えば、由美香ちゃんが、何か言っていたよな。
 ナッツは、応接室で由美香から受けた説明を思い出した。
 『……この世界と転生界では、時間の流れが違うと言うことです』
 『……あっちの世界には、もっと長くいた気がするよ。
 二年近くは過ごしたと思う。
 時間の流れの違いとは、そう言うこと?』
 『そういうことも含めてです』

 ……含めてか。
 ナッツは眉を寄せ、時間の流れを理解しようとしてみる。
 「おれが現実世界で事故に遭い、転生界に移動したとき、まだアイクは現実世界で普通の生活をしていた……。
 でも、転生界には、すでにアイクがいたってわけか」
 自分の言葉に不自然さを感じながら、ナッツは井沢に視線を向けた。
 井沢は、その解釈が間違いでないというように小さく頷いた。
 
 「覚醒してから今日までの間に三人の帰還者と会った」
 アイクが言う。
 「三人とも、ジェーマイン戦より以前に転生界で命を落とし、こっちの世界に戻ったらしいが、やはり時間の流れに共通するものは無かった」
 「いや」と、アイクは自分の言葉を否定した。
 そして井沢たちに視線を向ける。

 「もしかしたら、共通性や法則があるのかも知れない。
 まだ、井沢さんから、教えてもらっていないけどね」
 冗談めかしてアイクが言うが、井沢はそれに反応しなかった。
 
 「サキちゃんが昏睡状態になったのはいつ?」
 アイクが、マジックペンを手にたずねた。
 壁の略図に、サキのラインも書き込むつもりなのであろう。

 「……」
 サキは答えない。
 「資料によれば、三週間前になっていますね」
 テーブルの向こうから、しれっと答えたのは戸倉であった。

 ナッツは、驚いてサキを見た。
 三週間前と言えば、ほんの少し前である。
 「……ねえ、師匠。
 師匠は、どれぐらいの期間、転生界で過ごしたんですか?」
 とてつもない言葉が、サキの口から出た。
 「13年だ」


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