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ねじれた杖

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 「罠士だよ」
 ナッツは息を整えながら答えた。

 「なんだ、そのジョブは?」
 ジェーマインは怪訝な顔になる。
 針は抜け落ちていたが、右目は閉じたままであった。

 「知らね。勝手に作ったんだ」
 ナッツは開き直った笑みを浮かべて言う。
 「この世界に来て、最初に知り合った女の子が盗賊だったんだ。
 彼女から、宝箱に仕掛けられているトラップの解除方法や、逆に追手や侵入者に仕掛ける、トラップの設置方法を教えてもらったんだよ」
 ジェーマインは無言で聞いていた。

 「矢で相手を落とし穴のある場所に追い込んで、落ちたところで、さらに岩を落とすトラップとかね。
 こっちの計算通り、連動して決まったら、おもしろいんだぜ。ドッキリみたいだろ」
 「……そうか」
 ジェーマインは納得した顔になった。
 「お前は、転生者か」

 「例えばさ……」
 ジェーマインの言葉には答えず、ナッツは声色を変えた。
 「魔王の私に、ここまでの手傷を負わせるとは見事ものだ。
 今回は見逃してやろう。
 私を倒したくば、さらに修行を積んで、挑んでまいれ……とか、そういう気持ちは無い?」
 「無いな」
 即答したジェーマインだが、それでもナッツの言葉をおもしろがっているようであった。

 「じゃあ、世界の半分をくれてやるから、部下になれとかも?」
 「無い」
 「だよな。あんたは、そういう性格じゃない。
 ……まだ、おれの仲間は、誰も死んでいない。虫の息だけど生きている。
 ……わざとだろ」
 ジェーマインは「そうだ」とも「違う」とも言わない。
 ナッツの次の言葉を待っている。
 ……掛かったか、な?

 「どうして、わざとだと思うのだ?」
 ナッツが黙っていると、ジェーマインがうながした。
 「レベルの低いパーティに、ここまで追い込まれ、プライドはズタズタになったんだろ。
 そのプライドを修復するために、ゆっくりと一人ずつ、他の仲間に見せつけるように殺し、恐怖を刻みつけ、命乞いをさせ、魔王に挑んだことを後悔させたうえで、最後の一人も殺すんだろ」

 「おもしろいな。
 で、お前は何番目に殺されたいのだ?」
 ジェーマインは「くくくく」と笑う。
 笑いながら、うつ伏せで転がっているシモンに指先を向けた。
 「衝ッ!」
 いきなり攻撃魔法を放った。

 倒れていたシモンが、見えない巨人に蹴り飛ばされたように転がった。
 その手から毒に濡れたナイフが転がり落ちる。
 上位呪文ではないが、今のシモンには致命傷になりかねないダメージであった。
 「くそッ……」と、シモンが小さくつぶやき、気を失った。

 「仲間の回復を待つ、時間稼ぎの会話か」
 ジェーマインが楽しそうにナッツに視線を戻して言う。

 ナッツは答えない。
 「話の内容もなかなかのものだ。
 この状態で、お前たち一人ひとりを念入りに嬲り殺せば、それなりの時間が掛かろう。
 しかし、魅力的で試したくなることも確かだな」
 ジェーマインは、少し足を引きずるようにして移動する。

 「一人ずつ殺す間に、回復した者が、反撃を試みるという罠か? 
 仲間の命も、罠の一部とするのか? 
 素晴らしいものだな」
 ジェーマインは、歌うように言いながら壁の前に立った。
 その壁には、幾つもの呪われた杖が掛けられていた。

 「くッ!」
 ナッツは唇を噛んだ。
 呪いは、魔王にとって何の障害にもならない。

 ジェーマインは、長い指で杖に触れ、その中から、ねじれた杖を取った。
 「心配するな。攻撃の杖ではない。
 お前たちのHPを1にするまで吸収させてもらう。
 そこまで下がれば、もはや教会にでも行かねば、回復することは無いであろう」
 ねじれた杖を軽く掲げた。
 「私が回復した後、ゆっくりと嬲り殺しにしてやる」

 ジェーマインは、生命力吸収魔法を唱えた。
 「ドレイン!」
 ねじれた杖が輝き、ジェーマインを包み込んだ。
 光に包まれたジェーマインから、五つの光球が飛び出し、ハンク、エルシャ、シモン、リーザ、そしてナッツに命中した。






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