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ナッツ

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 エルシャは七発のマジックミサイルを放った。
 屋内の至近距離からでは、外しようが無い。
 ミサイルは立て続けに魔王ジェーマインに命中し、七発目は突入時にできた、壁の大穴から外に向かって飛んでいった……。

 ……。
 ナッツが呆気にとられていると、外で爆発音がし、魔族のドラゴンライダーが墜ちていくのが見えた。
 「エル姉」
 「うっさい!」
 何か言う前に、逆ギレしたエルシャがナッツを睨んだ。

 「そんなことより、フォローしなさい! フォロー! 
 ナッツがいないから、高位魔法の詠唱ができなかったのよ!」
 「了解」
 
 大ダメージを受けたジェーマインに対し、ハンクが立て続けに斬り込んでいる。
 すでに光の盾は手にしていなかった。
 その分、さらに斬撃速度があがっている。

 しかし、それでもジェーマインに効果的な斬撃が入らない。
 ジェーマインはかけ直した魔法防御と絶妙な体さばきで、破邪の剣をかわしているのだ。
 かわしながら、攻撃魔法をハンクに撃とうとするが、これはシモンが許さなかった。

 シモンは常にジェーマインの死角、死角へと回り込み、毒針やナイフで、牽制攻撃をしかける。
 ハンクとシモンが押し勝っているように見えるが、ジェーマインは、常時発動しているであろう、自己治癒呪文によって、ダメージから急速に回復していた。

 ナッツが参戦して、ジェーマインにさらなる圧力をかけ、ハンクの奥義、エルシャの高位魔法を叩き込まないと、形勢が逆転することは間違いなかった。

 ナッツは、素早く手の中で『紋様』を組んでいく。
 「ねえ、ナッツ。リーザにキスぐらい、してもらったの?」
 エルシャの質問に、ナッツは動揺して『紋様』を組み間違えそうになった。

 カメレオン・ワームの中に、リーザと二人で消えていた間のことを邪推しているのだ。
 ナッツとリーザが、互いに好意を持っていることは、パーティの誰もが知っていることである。

 「してないっつーの!」
 「はああ? 
 あんた、何してたのよ!?」
 エルシャが心底、呆れた顔で言った。
 「ケガしてたんだよ! 
 エル姉、おれがジェーマインの魔法に撃たれるとこ見てただろ!
 それでケガして、リーザに治療してもらってたんだよ」

 「ねえ、ナッツ。私、以前、あんたにさ、恋愛って、初めて手を繋ぐまでのドキドキする時期が一番楽しいって教えてあげたでしょ」
 エルシャが諭すように言う。

 「あのさ、そんなことより、ハンクとシモンが押され始めてるぞ。呪文の詠唱をしなよ」
 「それはね、最後までいって、振り返ってみると、その時期が一番楽しかったって話なの。分かる? 
 ドキドキだけで終わっちゃったら、ただの失恋だから」
 「……そりゃ、まあ、分かるよ」
 「だったら、ここで勝って、最後までいくしかないわね」
 エルシャは、上手くまとめてみました的な笑みを浮かべて呪文の詠唱に入った。

 ちょっとイラッとしたが、それ以上に決意と力が湧いてきた。
 ナッツは、複雑な『連動紋様』を一気に組み上げた。

 ……ジェーマインは強かった。
 ハンクは、戦いの最中にレベルが49まであがった。
 エルシャは、35発のマジックミサイルを撃ち、32発までを命中させた。
 シモンは、誰にも見せたことのない奥の手、分身の術まで発動させた。
 リーゼは、制止も聞かずにカメレオン・ワームの体内から飛び出すと、初めて火龍の召喚に成功した。

 しかし、それでもジェーマインには、勝てなかった。

 破壊されつくした魔王の間で、半死半生となった四人は、あちこちに転がっている。
 ナッツもひび割れた床に座り込んでいた。右足を砕かれて、立つことが出来ないのだ。
 ナッツの正面には、ジェーマインが立っている。

 ジェーマインも無傷ではない。
 特に右足の脛は、床から生えた鎖付きのトラバサミに挟まれていた。鋼鉄の牙が、骨にまで食い込んでいる。
 ナッツが起動させた『連動紋様』に掛かったのだ。

 しかし、ジェーマインの意識は、まだ鮮明で、体力は残っているようであった。
 このまま、ナッツたち全員の息の根を止めることぐらい、容易にできるであろう。

 ジェーマインは、怪訝そうな目になり、自分の右足に食らいついているトラバサミを見た。
 短い呪文を唱えると、トラバサミは消失した。
 しかし、回復の呪文は唱えなかった。魔法力が尽きたのであろう。

 「つまらぬ術だが、どれもこれも、嫌なタイミングで仕掛けてくるな」
ジェーマインは、改めてナッツに視線を向けた。
 「お前は、何なんだ?」

 

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