上 下
3 / 83

戦闘開始

しおりを挟む


 魔導士のマジック・ミサイルが味方に直撃するるような、へっぽこパーティがここまでたどり着いたってのに、どうして、名立たるパーティが全滅しているんだろうか?
 ナッツが問うより先に、エルシャが口を開いた。
 「それだけのパーティが、全滅したなんて信じられないわね」
 エルシャが続ける。

 「ヴァナスの隠密機動は、二年前、あんたたち魔族の大幹部、グレド・ベラスを暗殺したパーティよ」
 「うむ。グレドがやられたときは驚いたな」
 ジェーマインは素直に認めた。

 「絶海衆は、全員が古代神と魔術契約を結んだ魔法僧兵。
 リベック一家は、最凶最悪の墓荒らしだけど、攻略した迷宮は、五大陸十七にもなる実力があるわ」
 エルシャが続ける。
 「光翼戦士団のアイクは、師の剣聖ボクデンを十代で超えたと噂される剣士よ。
 ボクデン・ツカハラは、あんた自身と戦って、引き分けたことがあるわよね」
 「よく知っているな、女。
 貴様、見かけ通りの歳ではあるまい」
 「うっさい!」

 ほめたつもりが急に怒鳴られ、ジェーマインがショックを受けたような顔になった。
 ……。
 「……えっと、どうして実力あるパーティが、全滅したのかってところから」
 気まずい間が流れ、ナッツはジェーマインをうながす。

 ジェーマインは、これまでとは違い、少し乱暴に答えた。
 「魔王殿の内部が手薄になったとは言え、対策は講じておる。
 どんな職種であっても、マスタークラスが侵入すれば、防衛装置が反応し、侵入者を閉じ込め、分断するのだ。
 全員がハイマスターのパーティであっても、分個別に攻撃をすれば、たやすく討てる」

 ああ、なるほど。
 ナッツは納得した。

 ナッツたちのパーティは、マスターどころか、みんなレベル50にも届いていない。
 最もレベルの高いハンクでさえ、騎士レベル48で壁にぶつかっている。
 ジェーマインが魔王殿に張り巡らせた防衛網に、勇者アイクたち大魚が次々と引っかかる中、網の隙間を潜って、たまたま最上階までやってきてしまった小魚が、ナッツたちであったのだ。

 「お前たちは、どのような手段を使い、ここまでやってきたのだ?」
 ジェーマインが問う。
 まさか、マスタークラス未満が、魔王殿に潜入するとは、想像もしていないのだろう。
 正直に話せば、ジェーマインが大笑いをするのか、激怒するのか想像がつかなかった。

 「神の御加護」
 そう答えたのは、ハンクである。
 ジェーマインを挑発するのではなく、当然のように答えた。
 「運の良さ」や「たまたま偶然」というものが、神の加護に分類されるのなら、正解かも知れない。

 「聞きたいことがある」
 ハンクがさらに続けた。

 「トルガー公国の騎士団は?」
 ハンクの質問に、ジェーマインは少し機嫌を直したように見えた。
 「おお、その鎧の紋章は、トルガーのものだな。
 そうか、お前はトルガー騎士団の一員なのか」
 ジェーマインの機嫌がどんどん良くなる。

 「同郷の騎士たちの安否が気になるのだな。
 ヤツらは勇ましかった。
 味方を鼓舞するためであろうが、なんと、ハル・トルガー王子が先陣を切って突撃してきたのだ。
 城門突破は、トルガー騎士団無くては、成し得なかっただろう」
 ジェーマインは笑みを浮かべ、歌うように続けた。

 「ただ、代償は大きかったな。
 もはや一兵も生きてはいまい。
 やつらは全滅したんだよ」
 ジェーマインは薄い唇の両端を吊り上げ、残忍な笑みをみせた。

 「があああああ!」
 ハンクが、ジェーマインの笑みに斬りかかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...