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タイムカプセルから出てきた闇・Ⅱ

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 『全部、木原先生のせいだ。
 ぼくは、まだ小さいから、木原先生にはかなわない。
 でも、このカプセルが開けられるころには、ぼくも大きくなっている。
 その時に、木原先生に仕返ししてやる。
 ぼくと同じように、ひどい目にあわせてやる。
 復讐してやる。復讐してやる。
 絶対に復讐してやる!』

 「ちょっと手紙を貸して」
 ぼくは舞原の手から手紙を取った。

 手紙は少し黄ばみ、パサパサに乾燥していた。
 「……分かった。
 これって、『墓場』のタイムカプセルの中にあった手紙なんだ」

 「そっか、タイムカプセルは、夏休みに卒業生が集まって、開けているものね」
 舞原も同意する。

 野火塚小は、卒業するときに、未来の自分に向けた手紙を保管する、タイムカプセルを作るのだ。
 タイムカプセルは、東校舎の裏に並べられている。
 先生たちは、そこを『タイムカプセルの森』と明るいネーミングで呼んでいるが、ぼくたちは『墓場』と呼んでいる。

 たしかに木が何本か生え、雑草が茂っているところは小さな森っぽいけど、その中に置かれた、いくつもの朽ちたタイムカプセルは不気味だった。
 雰囲気が、寂れた『墓場』そのものなのである。

 石膏で作られたタイムカプセルは、円筒形や卵型、ピラミッド型のような単純なものから、土偶型や亀の形をした、ちょっと凝ったものまで、その年によってそれぞれ形が違う。
 中は空洞になっていて、卒業生たちは、その中に未来の自分への手紙を入れるのだ。

 何年後にタイムカプセルを開けるかは、卒業生たちが決める。
 四年後、五年後が一番多く、中には十年後というタイムカプセルもあると聞いた。

 完成した時は、真っ白で綺麗だった石膏のタイムカプセルも、一年もたてば雨や風で薄汚れ、表面にひび割れが出来て、いい感じにオドロオドロしくなる。

 ぼくたちが『十年物』と呼んでいるタイムカプセルは、背の高い円筒形をしていて、石膏の割れ目から雑草が生え、あちこちに苔が張りついている。

 こういうタイムカプセルが、薄暗い木陰に、七、八個ほど並んでいるのだ。
 イメージとしては、やっぱり『墓場』である。

 「なあ、舞原。
 東校舎の裏を回って『墓場』を見ていこうよ」
 ぼくは舞原をさそった。

 「えーー、でも……」

 「どのタイムカプセルに、この手紙が入っていたか気になるだろ。
 それとも怖い?」
 ちょっと挑発するように、ぼくは言った。

 『墓地』には、いくつかの不気味な噂があるのだ。
 あるタイムカプセルは、中身の手紙が全部捨てられ、代わりに死体が隠されているとか、あるタイムカプセルの表面をコンコンと叩いてみると、中から「あと三年」と声が聞こえたとか、そういう噂である。

 「怖くないわよ」
 「じゃあ、出発」
 舞原の返事を聞いて、ぼくは歩き出した。

 この時ぼくは、『墓地』で不思議なことが起こったら、地図に三つ目の『怪』の印を入れようと、能天気なことを考えていた。

 「待ってよ、タケル」
 舞原が追ってくる。

 ぼくたちは南校舎と東校舎をつなぐ渡り廊下を越えて、東校舎の裏に回り込んだ。
 木々と雑草が茂る『タイムカプセルの森』が少し先にある。
 ここからも、墓標のようにタイムカプセルが、並んでいるのが見えた。

 一番目立つ、「十年物」とぼくたちが呼んでいたタイムカプセルが消えていた。

 「十年物が、無くなってるよ」
 ぼくは舞原に言った。

 「じゃあ、この手紙は、十年物のタイムカプセルに入っていたんだね」

 「ってことは、あれだよな。
 一之瀬って子は、今は22歳か」
 さっきまで弱々しい男の子をイメージしていたのに、それがいきなり22歳でしたとなっても、ピンと来なかった。

 「もう、大人だよね。
 復讐なんて忘れているんじゃないかな」
 舞原が言う。

 「うん。
 木原って言うイジワルな先生も別の学校に行っちゃったか、先生を辞めているかも知れないしね」

 「ねえ、タケル。
 手紙はどうしようか?」

 「しッ!」
 ぼくは口の前に人差し指を立てた。
 『墓場』の雑草が、不自然に揺れた気がしたのだ。

 「……」
 舞原も気がついたのか黙り込む。

 別のタイムカプセルの後から、黒い塊がヌウッと立ち上がった。
 それはしゃがみ込んでいた人間だった。

 子供ではない。大人の男性である。
 ぼくたちに背中を向けたまま、男は左の方に顔を向けた。

 横顔はまだ若い。
 22歳なんだろうなとぼくは思った。

 男がそのまま、こっちに振り返るように動いた。
 ぼくは急いで舞原を引っ張り、東校舎の陰に隠れた。

 遅かったかも知れない。
 隠れる寸前、男に見られたような気がしたのだ。

 「やばい、逃げよう!」
 ぼくは小声で言うと、舞原を追い立てるように南校舎の方へと走った。

 「ね、ねえ、タケル。あの人って、もしかして……」
 舞原がおびえた声で言う。

 舞原が何を言いたいのかは分かる。
 ぼくも、あの男は手紙を書いた一之瀬孝雄じゃないかと思っていたのだ。

 こんな時間に『墓場』でウロウロしていたのは、もしかしたら、この手紙を探していたのかも知れない。

 「とにかく職員室へ行こう。
 誰か先生がいるはずだよ」
 ぼくたちは、職員室のある南校舎の玄関に駆け込んだ。

 ここから本当の恐怖が始まった……。
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