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エレキテル・Ⅰ

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 ゲンノウは、浪人の後頭部に針を刺した。
 垂直に刺したのではない。針先が頭部に向かい、斜めに潜り込む角度で刺したのだ。
 深く刺す。
 
 見ていた弥吉は背筋が冷たくなり、恐怖で全身が強張った。
 ゲンノウは、約三寸(9cm)の長さの針を根元まで浪人の頭部に潜り込ませたのだ。
 容赦のない深さであった。

 しかし、浪人は一切の抵抗を見せなかった。
 普通の人間ならば、針が肉体のどこかに刺さった瞬間に、痛みを感じ、何かしらの反応を見せるはずである。
 がまんをしていても、反射的に筋肉が緊張する。
 それが無かった。

 ゲンノウは二本目の棒を手に取った。
 これも一本目と同様、先端から針が飛び出し、尻から長い紐が垂れ、横にある木箱に繋がっている。
 そして、この針も深く浪人の後頭部に突き刺した。
 一本目とは違い、やや右耳よりの位置である。
 それでも浪人は動かない。

 「……ゲンノウのおじさん」
 弥吉は声を絞り出した。
 「だ、だいじょうぶなの?
 浪人のおじさん、死んじゃったんじゃないの?」
 弥吉が問うと、ゲンノウは二本目の棒から手を離して、こちらを見た。

 「弥吉。以前、オレは雷を作れると言ったのを覚えているか?」
 弥吉の質問には答えず、ゲンノウはそう言った。
 
 「雷?」
 弥吉は、ゲンノウが何を言っているのか分からなかった。
 目の前の光景が強烈過ぎて、頭の奥底がしびれたようになっている。
 うまく頭が動かないのだ。

 「エレキテルだ」
 「エレキテル?」

 「お前と初めて出会った日、オレは、エレキテルと言うからくりで、雷を作ることができると教えてやったであろう」

 「……」
 弥吉は、ようやく思い出した。
 あれは沢の底でのことだ。
 ランガクシャは何者かと、弥吉が質問したときのことである。
 ゲンノウは、蘭学者は医者であり、技師でもあり、絵師でもあり、科学者でもあると言い、雷を作ることもできるとも言ったのだ。
 弥吉は信じられなかったが、ゲンノウは『お前が見たいと言うのなら、見せてやってもよい』とまで言った。

 「弥吉。雷をみせてやろう。
 こちらに来て手伝え」
 ゲンノウは、そのときと似た言葉を口にした。
 拒絶したかったが、この異様な状況の中で、ゲンノウの言葉に逆らうことはできなかった。
 弥吉は寝台を回り込み、ゲンノウのそばにまで移動した。
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