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浪人・Ⅱ
しおりを挟む「それで、この洞窟へ、勝手に入り込んだと言うわけか……」
むしろの上に座ったゲンノウは、端に置いてあった薬研を引き寄せた。
薬研とは、船形をした小さな石臼で、ここに薬草などの薬材などを入れる。
その後、両側に軸のついた薬研車という円盤状の道具で、入れた薬材を挽き、粉末状の散薬にしたり、丸薬を作ったりするのである。
ゲンノウは懐から小袋を出すと、摘んできたらしい野草を薬研に入れ始めた。
並べられていた幾つかの小瓶からも、干したキノコや赤黒い肉のようなものを摘まみ出し、これも薬研に入れた。
薬研車を使い、ゴリゴリと薬材を挽き始める。
「……父は、ここに来ることを許したのか?」
薬研車を転がしながら聞いた。
視線は弥吉に向けず、手元の薬研に落としている。
「言えば止められるから、黙って来たよ」
「……誰か、お前がここに来たことを知っている者はいるのか?」
「いないよ」
「……そうか」
頷いたゲンノウは、薬研の底から挽いた薬材を取り出した。
摘んできたばかりの薬草から汁が出て、ほどよい粘りがある。
ゲンノウは、それを手の平の上で転がし丸薬にした。
「ねえ、ゲンノウのおじさん。
この人は誰なの?」
弥吉が問うと、ようやくゲンノウは顔をこちらに向け、ニヤリと笑った。
「三日前に町まで降りて、そこで雇うてきた浪人よ」
「お侍さんなんだね。
……雇ったって、もしかして、おいらが水汲みに来なかったから」
弥吉が言うと、ゲンノウは「わはははは」と楽しそうに笑った。
「水汲みに浪人を雇うなど、聞いたことはないわ」
「じゃあ……」
「弥吉がさっき言ったであろう。
蘭学で怪物を退治するために雇ったのさ」
ゲンノウが立ち上がった。
寝台に腰を掛けたままの浪人の正面に移動する。
「口を開けよ」
ゲンノウが命じると、浪人が大きく口を開いた。
開いた男の口の中に、ゲンノウは、今作ったばかりの丸薬を放り込んだ。
「飲め」
ゲンノウが命じると、男は口を閉じた。喉がごくりと動き、丸薬を嚥下する。
「ねえ、ゲンノウのおじさん。
この浪人さんは強いのかい……?」
弥吉は不安になって問う。
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