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番犬・Ⅰ

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 「話の続きって何だい?」
 弥吉が怪訝な顔になると、ゲンノウはこう答えた。

 「とても仕官が叶いそうにない、弱そうな浪人の話だ」
 「……え?」
 弥吉は話が飲み込めなかった。
 それは架空の浪人の話ではなかったのか。
 
 「その浪人の手伝いをし、駄賃をもらうという名目で、時折ここに来て、オレの手伝いをして欲しいのだ」
 とまどう弥吉を見たゲンノウは、小さく笑いながら言う。

 「なんだい、そう言う意味なのか」
 からかわれたと知り、ちょっと口を尖らせた弥吉だが、すぐに気を取り直した。
 駄賃が出ると言うなら、母のためにも手伝いをしたい。
 「手伝うって、何をすりゃあいいんだい?」

 「たいしたことではない」
 ゲンノウは沢での水汲みや薪集め、野草の採取、磐梯山の道案内などをあげた。
 他にも、雑穀が余っていれば、駄賃とは別に、買い取るような話も出る。
 「父ちゃんに聞かなきゃ分かんないけど、今日、四十文もくれたし、雑穀なら、たぶん大丈夫だよ」
 「蘭学者とは言うなよ。
 くれぐれも、山籠もりをしている浪人と言うのだぞ」
 「分かってるよ。
 ここの御山には、たまに山伏なんかも修行にやってくるからね。
 山籠もりのお侍さんがいたと言っても、父ちゃんも母ちゃんも不思議に思わないさ」

 二人の間で話がまとまり、最初の手伝いは明後日の午前中と言うことになった。
 「じゃあね、おじさん」
 「弥吉。今日は助かった。礼を言う」
 ゲンノウの言葉をくすぐったい思いで聞きながら、弥吉は洞窟から外に出た。
 山道に戻るため、ゲンノウが熊よけの犬を飼っているという洞窟の前を通る。
 組んだ木々で硬く出入り口を閉ざされた洞窟である。
 ……ゲンノウのおじさんも間抜けだな。
 これじゃ、いざ熊が来ても、犬が出てこれないだろうに。
 弥吉は、そんなことを考えながら山道へと戻った。
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