186 / 202
ゲンノウ・Ⅱ
しおりを挟む「弥吉。ともかく降りてこぬか。
見上げたままで話すのは肩が凝る」
弥吉は、まだ「うん」とは言わなかった。
しかし、警戒しつつも、ゲンノウという男に、妙に惹かれ始めていた。
「何も取って食うわけではない」
笑みを浮かべてそう言ったゲンノウは、懐に手を入れると、数枚の穴銭を取り出した。
「その道まで上ることに手を貸してくれれば、このように駄賃を払おう」
「うそじゃないよね」
弥吉は、ゲンノウの手の平に乗る穴銭に目を奪われた。
「……何か買いたいものでもあるのか?」
弥吉の反応の変化を察したのか、ゲンノウの声の調子が変わった。
不思議そうに、そして優しく弥吉に問う。
「……母ちゃんが病気なんだ」
弥吉は正直に答えた。
「妹を産んでから、体の具合が悪くなっちゃったんだよ。
だから、銭をくれるなら、何か精のつくものを買ってやりたいんだ」
「そう言うことであったか」
ゲンノウが納得した顔になった。
「弥吉。ともかく降りて来い。
そして、母の具合をもう少し詳しく聞かせよ」
ゲンノウの言葉は、「頼み事」から「命令」に変わった。
「……うん」
弥吉は反発せずに頷いた。
もしかして、このゲンノウという男は、母親を助ける力になってくれるかも知れないと感じたのだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる