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ゲンノウ・Ⅱ

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 「弥吉。ともかく降りてこぬか。
 見上げたままで話すのは肩が凝る」

 弥吉は、まだ「うん」とは言わなかった。
 しかし、警戒しつつも、ゲンノウという男に、妙に惹かれ始めていた。

 「何も取って食うわけではない」
 笑みを浮かべてそう言ったゲンノウは、懐に手を入れると、数枚の穴銭を取り出した。
 「その道まで上ることに手を貸してくれれば、このように駄賃を払おう」
 
 「うそじゃないよね」
 弥吉は、ゲンノウの手の平に乗る穴銭に目を奪われた。
 
 「……何か買いたいものでもあるのか?」
 弥吉の反応の変化を察したのか、ゲンノウの声の調子が変わった。
 不思議そうに、そして優しく弥吉に問う。

 「……母ちゃんが病気なんだ」
 弥吉は正直に答えた。
 「妹を産んでから、体の具合が悪くなっちゃったんだよ。
 だから、銭をくれるなら、何か精のつくものを買ってやりたいんだ」

 「そう言うことであったか」
 ゲンノウが納得した顔になった。
 「弥吉。ともかく降りて来い。
 そして、母の具合をもう少し詳しく聞かせよ」

 ゲンノウの言葉は、「頼み事」から「命令」に変わった。
 「……うん」
 弥吉は反発せずに頷いた。
 もしかして、このゲンノウという男は、母親を助ける力になってくれるかも知れないと感じたのだ。
 

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