183 / 203
磐梯山・Ⅰ
しおりを挟む会津の磐梯山で、平賀源内が恐ろしい怪獣を造り上げていた。
そのことを口にした弥吉が、ガタガタと震えはじめた。
恐怖のためか、顔が引きつっている。
「弥吉。どうした?」
後藤が静かな声で優しく問う。
「こここ、殺されます。
あ、ああああ、話してしまった。
源内のことを口にしてしまった。
わわ、私は、ここ、殺される」
尋常の脅えようでは無かった。
「弥吉。私を見ろ。
私の顔を見るのだ」
後藤の言葉で、定まらなかった弥吉の視線が、徐々に落ち着き始めた。
「我らがおる。
町奉行が、お前を守ってやる。
源内に手出しはさせぬ。
分かったな」
「は、は……はい」
後藤に見詰められ、頷いた弥吉の体から震えが収まった。
「落ち着いて話してみよ」
「……どこから話せばよいのか」
「十歳のころ、磐梯山の麓に住んでいたと申したな。
そのころ、源内と初めて出会ったのか」
「左様でございます」
「ならば、そこから話せ。
ゆっくりで良い。
覚えていることをすべて話してみよ」
「……あれは」
弥吉が話し始めた。
「十歳の春でございます。
私は山菜を採りに、磐梯山へと入りました」
◆◇◆◇◆
弥吉は、よく知る山道を登っていた。
ピピッ。チチッ。
山鳥の短い鳴き声が、高い梢から聞こえる。
ときおり山道を外れ、森へと分け入った。
山菜を採るためである。
岩肌から清水が流れ出している場所や、日当たりが悪く湿った場所を探してみるが、いつもなら多く生えているゼンマイやフキ、ミズなどは見当たらなかった。
日当たりの良い場所で、イタドリやコゴミ、ワラビなどを探してみても見当たらない。
「誰かが、先に採っちまったのかな」
弥吉はさらに山奥へと入り込んだ。
それでも思うように山菜は見つからなかった。
これ以上、奥まで入り込むのはどうしたものかと立ち止った時、その声が聞こえてきた。
おーーい。
おーーい。
人間の声である。男の声だ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる