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磐梯山・Ⅰ

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 会津の磐梯山で、平賀源内が恐ろしい怪獣を造り上げていた。
 そのことを口にした弥吉が、ガタガタと震えはじめた。
 恐怖のためか、顔が引きつっている。

 「弥吉。どうした?」
 後藤が静かな声で優しく問う。

 「こここ、殺されます。
 あ、ああああ、話してしまった。
 源内のことを口にしてしまった。
 わわ、私は、ここ、殺される」
 尋常の脅えようでは無かった。

 「弥吉。私を見ろ。
 私の顔を見るのだ」
 後藤の言葉で、定まらなかった弥吉の視線が、徐々に落ち着き始めた。
 
 「我らがおる。
 町奉行が、お前を守ってやる。
 源内に手出しはさせぬ。
 分かったな」

 「は、は……はい」
 後藤に見詰められ、頷いた弥吉の体から震えが収まった。

 「落ち着いて話してみよ」

 「……どこから話せばよいのか」

 「十歳のころ、磐梯山の麓に住んでいたと申したな。
 そのころ、源内と初めて出会ったのか」

 「左様でございます」

 「ならば、そこから話せ。
 ゆっくりで良い。
 覚えていることをすべて話してみよ」

 「……あれは」
 弥吉が話し始めた。
 「十歳の春でございます。
 私は山菜を採りに、磐梯山へと入りました」

   ◆◇◆◇◆

 弥吉は、よく知る山道を登っていた。
 ピピッ。チチッ。
 山鳥の短い鳴き声が、高い梢から聞こえる。
 ときおり山道を外れ、森へと分け入った。
 山菜を採るためである。
 岩肌から清水が流れ出している場所や、日当たりが悪く湿った場所を探してみるが、いつもなら多く生えているゼンマイやフキ、ミズなどは見当たらなかった。
 日当たりの良い場所で、イタドリやコゴミ、ワラビなどを探してみても見当たらない。
 
 「誰かが、先に採っちまったのかな」
 弥吉はさらに山奥へと入り込んだ。
 それでも思うように山菜は見つからなかった。
 これ以上、奥まで入り込むのはどうしたものかと立ち止った時、その声が聞こえてきた。
 おーーい。
 おーーい。
 人間の声である。男の声だ。
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