大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~

七倉イルカ

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目撃者・Ⅱ

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 「弥吉。顔をあげよ」
 後藤が言うと、弥吉はおずおずと顔をあげた。
 四十半ばとみえる男である。
 鍛冶場の炉で長年炙られていたためか、顔が赤く焼けている。
 「ここに来る前、その駕籠はまだ土蔵の横にあったのか?」
 無駄だと思いつつ、確かめる。

 「い、いえ。
 人魚が濠へと逃げた後、いつの間にか消えておりました」
 答えた弥吉が、また頭を下げる。

 ぐりふぉむのときと同じか……。
 後藤は苦い顔になった。
 人魚のみに聞こえる合図を送り、濠へ戻ることを命じた後、犬神憑きに守られた駕籠で去ったのであろう

 「後藤」
 景山がこちらを見た。
 ぐりふぉむ戦の後に追った駕籠についての情報は、もちろん奉行所内で共有している。
 景山は、後藤と同じことを理解しているようであった。

 「戸田と室瀬がいる」
 景山が、同僚の同心の名前を口にした。
 遅れて現れ、今は濠端で人魚の骸の処理をしているはずである。
 「あの二人に、手下を使い、駕籠を捜すように伝えてくる」
 そう言った景山は、佐竹の方に向き直った。
 佐竹が頷き、景山が立ち上がる。

 「見つけた場合、尾行だけに専念させよ。
 手を出せば、間違いなく殺されるぞ」
 後藤は、景山に声を掛けた。

 「分かっておる」
 そう答えた景山は、素早く座敷を出て行った。

 自分の証言で、同心の一人が慌ただしく席を外したため、弥吉はさらに緊張し、視線をおどおどとさ迷わせていた。

 「落ち着け、弥吉」
 後藤が声を掛ける。
 「何事もその方の責任ではない。
 ただ、幾つか確認したきことがある」
 後藤がそう言った。
 弥吉を落ち着かせるため、笑みを浮かべている。
 しかし、どうにも解せないことがある。

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