大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~

七倉イルカ

文字の大きさ
上 下
180 / 204

目撃者・Ⅰ

しおりを挟む

 商家の奥座敷を借り、与力の佐竹が上座に座った。
 下座に景山と後藤が座ったが、佐竹に軽く頭を下げると体の向きを縁側に向ける。
 縁側に、徳蔵と徳蔵の連れた男が座っているのだ。

 最初、徳蔵は恐れ多いと言い、縁側の下、中庭に座ると申し出たが、後藤がそれを拒否した。
 やり取りが外に漏れることを嫌ったのである。
 本当ならば、同じ座敷内で話を聞きたかったが、徳蔵が頑なに固辞し続け、このような形になったのである。

 後藤は、ここで幾つかの質問をし、詳細は後日奉行所で聞くつもりでいた。
 佐竹は、質問には加わらない。
 後藤と景山の質問、そして男の返答を聞くだけである。

 「徳蔵と申したな」
 「はっ」
 後藤の言葉に、徳蔵は深く頭を下げた。
 「下谷北で周旋業を営んでおります」

 「隣の男は?」
 「この者は、八年前、私が鍛冶の幾野へ紹介をした弥吉という者でございます」

 「や、弥吉でございます」
 徳蔵に紹介され、横に座る男が、下げていた頭をさらに深く下げた。
 言葉に奥州訛りがある。

 「弥吉。その方、平賀源内を見たと申したが、真か?」
 「は、はい」
 平伏したままの弥吉が答える。
 緊張のためか、声が震えていた。

 「いつ、どこで見たのか?」
 幾つか確かめることがあったが、後藤は、まず肝心なことを聞いた。

 「先ほど、お城の濠で騒ぎがあったときでございます」

 弥吉の言葉に、後藤、景山、そして佐竹も固まった。
 昨日、一昨日などの話ではなく、「たった今」の話なのである。

 「濠近くにある加賀屋の土蔵の横、そこに置かれた駕籠の中に源内がおりました。
 開いていた小窓から、その顔が見えたのです。
 ま、間違いありませぬ。
 あれは平賀源内でありました」

 後藤は、弥吉の言葉を聞いた瞬間、自身の失態に気付いて蒼白になった。
 弥吉が見た駕籠と言うのは、ぐりふぉむ戦のとき、浅草寺前の路地にあった、あんつぽ駕籠で間違いないと思われた。
 後藤が追い、駕籠かきが異形の狗神憑きと化した、あの駕籠である。
 ぐりふぉむ戦のことを思い返せば、今回もまた、野次馬に紛れて、平賀源内が現場にいたことは予想できたはずであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...