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鞭・Ⅲ

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 「……そうだな。
 それでも藩士たちが騒ぐことになれば、藩主にまで累が及び、下手すれば、藩のお取り潰しもあるかも知れぬ」
 頷いた景山は、後藤に呆れたような目を向けた。
 「しかし、あの瞬間で、よくそこまで考えつくものだ」
 
 「時間があれば、もっと良い手を思いついたさ」
 後藤が返す。

 「どんな手だ?」

 「そうだな……。佐竹様に、こういうのだ。
 『佐竹様。その鞭で、景山の肩を強く叩いてくだされ』とな」

 「……」
 後藤がいたずらっぽい笑みを口の端に浮かべて言うと、景山は嫌な顔をしてみせた。
 
 「まあ、俺がしたのは、ただの小手先だ。
 藩士たちがおさまったのは、やはり佐竹様の徳であろうさ」
 後藤は、濠の方に視線を向けた。
 
 他の同心たちが、手下や小者を連れて集まっていた。
 佐竹の采配によって、そのうちの半数は濠から藩士の遺体を引き上げる手伝いをし、半数は調達してきた荷車に、人魚の骸を乗せていた。
 
 その様子を確認した後藤は、徳蔵を捜した。
 ……いた。
 徳蔵は野次馬の最前列に立ち、こちらを見ている。
 徳蔵の横には、平賀源内を見たという男がおどおどとした顔で立っている。
 
 「……なに!
 源内を見た者がいたのか」
 後から佐竹の声が聞こえた。
 景山から説明を受け、こちらに近寄ってくる。

 「おい」
 後藤は近くにいた、小者を呼んだ。
 「あそこの商家に行き、座敷をかりてくるのだ」
 そう命じた。
 与力の佐竹が現れたからには、道端で立ったまま話を聞くことはできない。
 それから徳蔵に向かって手招きをする。
 徳蔵は男を連れて、こちらへと近寄ってきた。
 
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