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骸・Ⅱ

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 「くッ……。
 こ、小舟の上で戦う不利が分からぬのかッ!」
 「こちらは、何人死んだと思っているッ!」
 「人魚退治を命じられたのは、我らであるぞ!」

 後藤の危惧した通り、景山の反論で藩士たちは引けなくなってしまった。
 もはや、話し合いのできる空気ではない。
 景山、後藤は、御家人とは言え、将軍に直接仕える直参である。
 藩士たちは、将軍に仕える大名の家臣であり、陪臣にあたる。
 しかも、外様大名の陪臣であるため、本来、面と向かって御家人と対立することは無い。
 だが、多くの同僚を殺された直後であるため、殺気立っていた。
 藩士たちの数が多く、後藤たちが二人と言うことも不利に働いた。
 岡っ引きや手下、小者たちは多く集まって来ていたが、武士同士の争いに彼らは入って来ない。
 他の野次馬と同じく、事の成り行きを遠巻きで眺めている。

 「景山、抜くなよ」
 後藤が囁いた。
 いくら殺気立っていても、無手の同心に斬りかかってくる藩士はいまい。
 しかし、こちらが抜けば、すでに抜刀している藩士たちは斬りかかって来るかも知れない。

 ……まだか?
 後藤は、事態を収拾できる人物がやってくるのを待った。
 すでに、報せは届いているはずである。

 藩士の一人が挑発をするように、再び人魚の骸に刀を突き立てた。

 「おのれ、反抗するか」
 景山の声が低くなった。
 景山の腰が沈み、左手で鯉口を切る。

 ……いかん!
 後藤が焦ったとき、蹄の音が響いた。
 「無数の人魚が出たとは真か!」
 そう叫んで現れたのは、与力の佐竹であった。
 後藤が走らせた市井の男が、見事伝令の役を果たしていたのだ。

 「おお、討ち取ったか」
 あちこちに転がった人魚の死骸を見た佐竹は、場の緊迫感に気付かぬまま、嬉しそうな声をあげる。
 そして、景山、後藤の横で馬から降りた。
 本来御家人は、馬に乗ることを禁じられていたが、与力だけは乗馬を許可されている。
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