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手掛かり・Ⅲ
しおりを挟む「しばてん殿。
研水殿は怪物に狙われておる。
我らが同行したいところではあるが、ここの後始末がある」
景山が周囲を見回した。
野次馬が怖々と戻ってきている。
人魚の中には、動くことは出来ないが、まだ息のあるものもいるため、規制が必要であった。
「我らに代わり、研水殿に同行し、万が一のときは守って頂きたいのだ」
「分かりもした」
雷電は小さく頷いた。
「景山様、後藤様」
研水は、静かに二人に近づいた。
「あの者は、行方不明になっていた町大工で、『を』組町火消しに属していた松次郎という男でございます」
僧衣の袖を掛けられた、松次郎の遺体に目を向けて言う。
「……平賀源内の手に掛かり、人魚に改造されてしまったのでしょう。
ただ、正気を取り戻し、私を救ってくれました。
私の手で、丁重に弔いたいと思っております」
「分かっておる。
雑に扱うようなことはせぬ」
後藤がうなずいた。
「やはり、元はただの人間なのだな。
源内の犠牲者か……」
景山は唇を小さく噛んだ。
「他の者も出来る限り素性を洗い出す。
何か分かるかも知れたからな」
「よろしくお願いします」
頭を下げた研水は、辰五郎に声を掛けた。
チヨは、辰五郎の腕の中で寝息を立てている。
「辰五郎さん。
申し訳ないのですが、私の家に使いを出し、下男の六郎に、薬箱を持って奈良屋へ来るように伝えてもらますか?」
「おう。任せてくんな」
辰五郎が頷くと、若い娘が辰五郎のそばに立った。
「辰さん。
その子は私が」
辰五郎の知り合いなのであろう、娘がチヨを抱き上げた。
「喜八さん。案内を頼みます」
「こちらでございます」
腰をかがめた喜八が早足で歩き始め、研水と雷電が続く。
◆◇◆◇◆◇◆
研水、雷電、喜八を見送った後藤は、大きなため息をついた。
番所に連絡がいったのであろう、岡っ引きや小者たちが姿を見せ始めた。
今から、この惨状を見分し、片付けていかねばならぬのだ。
「八丁堀の旦那」
声が掛かり目を向けると、そこに四十がらみの男がいた。
眉が太く、顎が四角い。人宿の徳蔵であった。
徳蔵は一人の男を連れていた。
男は落ち着きがなく、おどおどとした目で周囲をうかがっている。
「わたしは周旋業をやらせていただいています、徳蔵と申します。
実は、この男が……」
徳蔵の話に、景山、後藤の顔色が変わった。
とんでもない情報が入ったのである。
平賀源内の目撃情報であった。
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