154 / 202
松次郎・Ⅱ
しおりを挟むチ、チチチ……。
ついに松次郎の目の焦点が合い、研水に抱かれるチヨを見た。
「……チ、チヨ」
松次郎が、はっきりとそう言った。
チヨを認識している。
「父ちゃん!」
チヨが叫んだ。
周囲の人魚が研水に接近する動きを止め、松次郎に視線を向けた。
仲間か人間かの判断がつかなくなり、戸惑っているようにも見える。
「……に、げろ」
意識が飛びそうになっているのか、そう言った松次郎の目の焦点が、また合わなくなっていく。
「父ちゃん!」
チヨの泣き声に、松次郎の目の焦点が戻った。
「チヨ、に、げろ……。
お、まえ、が、ぶじ、なら、とう、ちゃんは、うれ、しい……」
信じられないことに、松次郎は笑みを浮かべた。
優しい笑みで、チヨを見たのである。
「た、たつ……。
せ、せん、せい……。
チヨを……、たの、む」
そう言った松次郎は、若い人魚を押さえつけていた右手を大きく振った。
エラに指を引っ掛けたまま、まるで若い人魚を棍棒のようにして振り、近くにいた別の人魚に叩きつけたのだ。
シャッ!
シャーーーッ!
周囲の人魚たちが跳ねるようにして距離を置き、松次郎を威嚇するように牙を剥いた。
その中から、一匹が牙を剥いて襲い掛かった。
「らっ!」
松次郎は怯まず、その口に右拳を叩き込んだ。
そのまま浴びせ倒しの形で、その人魚を押さえ込む。
牙でズタズタになるのも構わず、相手の喉の奥へと、強引に右手を捩じり込んでいく。
相手の人魚の目は、両手で松次郎の右腕を引っ掻き回したが、すぐに目が白く裏返った。
「父ちゃん!」
「見るな、チヨちゃん!
見てはいけない!」
研水は、チヨの頭を抱え込む。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる