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松次郎・Ⅱ

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 チ、チチチ……。
 ついに松次郎の目の焦点が合い、研水に抱かれるチヨを見た。
 「……チ、チヨ」
 松次郎が、はっきりとそう言った。
 チヨを認識している。

 「父ちゃん!」
 チヨが叫んだ。

 周囲の人魚が研水に接近する動きを止め、松次郎に視線を向けた。 
 仲間か人間かの判断がつかなくなり、戸惑っているようにも見える。

 「……に、げろ」
 意識が飛びそうになっているのか、そう言った松次郎の目の焦点が、また合わなくなっていく。
 
 「父ちゃん!」
 チヨの泣き声に、松次郎の目の焦点が戻った。
 「チヨ、に、げろ……。
 お、まえ、が、ぶじ、なら、とう、ちゃんは、うれ、しい……」
 信じられないことに、松次郎は笑みを浮かべた。
 優しい笑みで、チヨを見たのである。

 「た、たつ……。
 せ、せん、せい……。
 チヨを……、たの、む」
 そう言った松次郎は、若い人魚を押さえつけていた右手を大きく振った。
 エラに指を引っ掛けたまま、まるで若い人魚を棍棒のようにして振り、近くにいた別の人魚に叩きつけたのだ。

 シャッ!
 シャーーーッ!

 周囲の人魚たちが跳ねるようにして距離を置き、松次郎を威嚇するように牙を剥いた。
 その中から、一匹が牙を剥いて襲い掛かった。
 「らっ!」
 松次郎は怯まず、その口に右拳を叩き込んだ。
 そのまま浴びせ倒しの形で、その人魚を押さえ込む。
 牙でズタズタになるのも構わず、相手の喉の奥へと、強引に右手を捩じり込んでいく。
 相手の人魚の目は、両手で松次郎の右腕を引っ掻き回したが、すぐに目が白く裏返った。
 
 「父ちゃん!」
 「見るな、チヨちゃん!
 見てはいけない!」
 研水は、チヨの頭を抱え込む。
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