151 / 204
人体改造・Ⅰ
しおりを挟む研水は信じられぬ思いで、目の前で上半身を高く起こす鯰尾の人魚を見た。
頭部は剃り上げられ、緑色掛かった皮膚はむくんでいるが、その顔は松次郎で間違いなかった。
「……松っあん。
俺だよ。辰五郎だよ」
研水の横で座り込んだままの辰五郎が、辛そうな顔で呼び掛ける。
しかし、松次郎は、その言葉に反応しなかった。
たった今、辰五郎に襲い掛かったことも忘れたように、動くのを止めている。
見開いた目は、どこにも焦点が合っていなかった。
……!
研水は息を呑んだ。
松次郎の頭部に、縫合の跡を見つけたのだ。
縫い跡が細かく一目では分からなかったが、頭頂から眉間に向かって、一本の縫合跡が垂直に走っている。
その縫合跡は、眉間から松次郎の右目の上を通る形で水平に移動し、右耳の上から後頭部へと消えている。
研水の位置からは見えないが、縫合跡は、後頭部で繋がっているように想像できた。
その意味を理解した研水の臓腑が収縮し、胃液がこみ上げてきた。
これは……、開頭手術を受けている……。
松次郎さんは、脳をいじられたのか……。
研水は、師である杉田玄白の言葉を思い出した。
過去、平賀源内が手に入れた『改造新書』を盗み見た玄白は、記されていた絵図を思い出し、こう話してくれたのだ。
……人間と動物の体を切り分けて繋ぐ術式の手順が描かれていた。
……さらに別の頁の図は、開いた脳をいじくり、人の体に様々な変化を生じさせていた。
人魚たちの頭部が剃りあげられているのは、みな開頭手術を受けていたからなのだ。
魔人平賀源内の狂気による被害者たちである。
「……ま、松次郎さん」
研水は、わずかな望みをかけて、目の前の松次郎に声を掛けてみた。
……こ。
……ここここここ。
松次郎は、エラを震わせ、意味の無い声をあげる。
目に意思の光は無く、焦点は合わないままである。
「……辰五郎さん。
どうにもならない。逃げましょう」
研水は辰五郎の袖を引っ張った。
研水が突き飛ばした後、立ち上がる機会が無かったため、二人とも地べたに腰を落としたままの姿である。
「……でも、松っつあんが」
「……残念ですが、松次郎さんとは、もう意思の疎通ができません。
それに、ほかの人魚もやってくる……」
研水は自身の無力さを噛み潰すように続けた。
「何より……、もう、人間に戻す手立てはない……」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
峠のキツネ
桐原真保
歴史・時代
福井県若狭地方に伝わるキツネにまつわる民話や伝説をもとにした小話です。
昔々、若狭の国の「峠小僧」と呼ばれる小キツネは人をだまして宴会のお土産をくすねたり、娘を亡くした女性の前に女の子の姿で現れてお菓子をせしめたりの悪戯をしていました。ある時、その地域のお殿様が見回りに来られました。子ギツネはまたもやイタズラを企んでいるのでしょうか…?
ずっと昔、人間と動物たちがご近所同士で暮らしていた頃の物語です。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる