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人体改造・Ⅰ
しおりを挟む研水は信じられぬ思いで、目の前で上半身を高く起こす鯰尾の人魚を見た。
頭部は剃り上げられ、緑色掛かった皮膚はむくんでいるが、その顔は松次郎で間違いなかった。
「……松っあん。
俺だよ。辰五郎だよ」
研水の横で座り込んだままの辰五郎が、辛そうな顔で呼び掛ける。
しかし、松次郎は、その言葉に反応しなかった。
たった今、辰五郎に襲い掛かったことも忘れたように、動くのを止めている。
見開いた目は、どこにも焦点が合っていなかった。
……!
研水は息を呑んだ。
松次郎の頭部に、縫合の跡を見つけたのだ。
縫い跡が細かく一目では分からなかったが、頭頂から眉間に向かって、一本の縫合跡が垂直に走っている。
その縫合跡は、眉間から松次郎の右目の上を通る形で水平に移動し、右耳の上から後頭部へと消えている。
研水の位置からは見えないが、縫合跡は、後頭部で繋がっているように想像できた。
その意味を理解した研水の臓腑が収縮し、胃液がこみ上げてきた。
これは……、開頭手術を受けている……。
松次郎さんは、脳をいじられたのか……。
研水は、師である杉田玄白の言葉を思い出した。
過去、平賀源内が手に入れた『改造新書』を盗み見た玄白は、記されていた絵図を思い出し、こう話してくれたのだ。
……人間と動物の体を切り分けて繋ぐ術式の手順が描かれていた。
……さらに別の頁の図は、開いた脳をいじくり、人の体に様々な変化を生じさせていた。
人魚たちの頭部が剃りあげられているのは、みな開頭手術を受けていたからなのだ。
魔人平賀源内の狂気による被害者たちである。
「……ま、松次郎さん」
研水は、わずかな望みをかけて、目の前の松次郎に声を掛けてみた。
……こ。
……ここここここ。
松次郎は、エラを震わせ、意味の無い声をあげる。
目に意思の光は無く、焦点は合わないままである。
「……辰五郎さん。
どうにもならない。逃げましょう」
研水は辰五郎の袖を引っ張った。
研水が突き飛ばした後、立ち上がる機会が無かったため、二人とも地べたに腰を落としたままの姿である。
「……でも、松っつあんが」
「……残念ですが、松次郎さんとは、もう意思の疎通ができません。
それに、ほかの人魚もやってくる……」
研水は自身の無力さを噛み潰すように続けた。
「何より……、もう、人間に戻す手立てはない……」
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