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人魚斬り・Ⅱ
しおりを挟む陸上に上がったためか、閉じてはいるが、三日月の形をした魚のエラに似たものが、下顎角にある。
ここに勢いのついた刀身を滑り込ませた。
深く入ってしまえば、刃が滑ることは無い。
後藤は、一気に斬り上げた。
最初の一匹に対しては、後ろから首を斬り飛ばすつもりで刃を薙いだ。
その斬撃が、人魚の体液で滑ったのだ。
しかし、滑って流れた剣先が、偶然にも人魚のエラに入り込んだ。
……体表は滑る。
……斬り込むなら、耳下のエラ。
……あるいは、目か口だな。
そう理解した後藤は、二匹目の人魚に対しては、意識的にエラを狙い、これも頭部を斜めに断つ形で斬り飛ばしたのである。
景山は、後藤が人魚を切り倒している間に、両手を使って老漁師を引き上げた。
「ああ、あ、ありがとうございます」
九死に一生を得た老漁師は、景山の袴に縋り付きながら礼を言う。
恐怖と濠の水で体温を奪われたためか、ガクガクと細かく震え続けている。
「よいから逃げろ!」
「この御恩は、この御恩は一生……」
「よいから手を離せッ!
袴をつかむなッ!
とっとと逃げるのだッ!」
老漁師を怒鳴りつけた景山は、ようやく抜刀した。
人魚は次々と濠端に上がってきている。
「景山!
耳下にあるエラを薙げ!
もしくは、目か口を狙うのだ!」
後藤が叫ぶ。
後藤は近づく人魚に対して、低い軌道で刀を走らせた。
右薙ぎで、人魚の両眼を裂く。
さらに剣先をひるがえし、右から左へ、左薙ぎで、もう一度箇所を切り裂いた。
ぐわわわわわわわわ!
声をあげた人魚は、水かきのある両手で顔を覆い、のたうち回った。
太い魚の尾がバタバタと激しく動き、近くにいた人魚を打つ。
「後藤、なぜこちらに来たのだ!」
景山は、目の前の人魚に斬りつけながら、後藤を責めた。
後藤の助言をすぐさま受け入れ、右薙ぎでエラを狙い、人魚の顎下に刃を滑り込ませる。
頭部を両断する前に、刀を引き抜く。
それでも後頭部の頚椎を断つことになり、斬り込まれたエラと口から血を溢れさせ、人魚は絶命した。
「お前を助けに来たのではないか!」
後藤が三匹目の人魚のエラを抉りながら答える。
「おれのことより、研水殿を守らぬか!」
景山は、次の人魚を切り倒して叫ぶ。
「研水殿なら、大丈夫だ」
そう答えた後藤は、素早く後退して人魚の群と距離を取り、元いた場所に視線を向けた。
研水に、後ろに下がり、濠から離れるよう忠告した場所である。
研水は、後藤の言葉に従い、濠から大きく離れたはずであった。
「……どういうことだ」
後藤の表情が強張った。
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