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後藤の不安・Ⅰ
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「研水殿。
念のため、後ろに下がり、もう少し濠から離れた方がよかろう」
「わ、分かりました」
後藤が命じ、研水は濠に視線を向けたまま後ろへと下がった。
濠から十分な距離を置く。
それを確認した後藤は、そばにいた、俊敏そうな若い男を捕まえた。
「おぬし、この状況を大至急、番所と奉行所に報せてきてくれるか」
「え、あ、あっしが、番所にですか?」
不意に声を掛けられ、男は驚いた顔になる。
「奉行所にもだ。
頼んだぞ!」
後藤は、男の体の向きを濠のから町の方向へ変えると、パンッと背中を叩いた。
どういう力の加え方をしたのか、男はとっとっとっととと町の方向に向かって、坂道を下る様に走り出した。
「わっ、わっ、わわ」と声をあげているが止まらない。
いや、止まれないようであった。
後藤は改めて、濠の左右に視線を走らせた。
各藩の指揮所が外郭側、つまり濠を挟んでこちら側にあるはずだが、水運に利用される蔵が多く、それらしき幔幕を張った陣地は、この位置からは見えなかった。
おそらく、各藩の指揮所は、今の濠の状況に対して新たな行動を開始し、それぞれの大名屋敷や奉行所にも、伝令を放っているはずである。
だが、それとは真逆で、ただ闇雲に混乱し、何の動きも取れていない可能性もある。
後藤は、その可能性を考え、男を奉行所に走らせたのだ。
……とは言え。
後藤は苦い顔になった。
奉行所にしても、この状況に対して有効な手が打てるとは思えなかった。
陸地であれば、化け物を防ぎつつ、怪我人を避難されせることはできるかも知れない。
しかし、水上では何もできまい。
人魚の捕獲に乗り出していた小舟の大半は沈められ、藩士と漁師の多くが殺害されるであろう。
さらに後藤には、それ以上に不吉な予感があった
被害が、濠だけに留まらない予感である。
「道を開けよ!」
後藤は野次馬を掻き分け、濠端まで出た。
どこに移動したのか、景山の姿が無い。
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