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槍
しおりを挟む鋭い穂先が、ふらふらと小さく揺れる。
…………。
次の瞬間、陽光を反射させ、穂先が水面を貫いた。
「ぬッ!」
新之助が唸る。
水面に激しい飛沫が上がった。
水中にある槍に掛かった力が、柄、新之助の腕、肩、腰、脚へと伝わり、小舟が揺らぎ始める。
飛沫の激しさに比べ、小舟の動揺は少なかったが、それでも漁師は悲鳴をあげた。
櫓から手を離し、船底に座り込んでしまう。
◆◇◆◇◆◇◆
「ぬぬッ!」
新之助が歯を軋らせた。
濁った水面下を小舟に寄って来た影に向かい、槍を繰り出したのだ。
その影は、上半身は人間で下半身は巨大な魚に見えた。
しかし、手ごたえは無かった。
外したかと思ったが、手繰り寄せようとした槍が動かない。
逆に、新之助の手から槍を奪い取ろうとする力がかかる。
信じられないことに、濠の底の影は、槍の穂先を躱しただけではなく、槍の柄をつかみ、水中に引き込もうとし始めたのだ。
引き込むために、全身をくねらせ、暴れ回っている。
水飛沫が、新之助の顔に届くほどであった。
槍をつかまれたとしても、そこからの返し技はある。
あるが、不安定な小舟の上で使えるものではない。
……さて、どがんすっか。
「三番、五番、二番に寄せよ!
六番、後ろに回り込め!」
新之助の耳に上役の声が聞こえた。
仲間の小舟が近寄ってくる。
それで人魚が逃げ出そうとするなら、必ず、槍の柄から手を離す。
その一瞬を見極め、さらに槍を深く繰り出し、人魚を串刺しにする。
……手柄ん、もろうた。
新之助は槍を握る手に力を込めた。
しかし、人魚は逃げなかった。
逆の動きに出たのだ。
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