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濠の底・Ⅰ
しおりを挟む景山は、しばらく無言となった後で口を開いた。
「……厳しいと思う」
否定であった。
おそらく老中が立てたであろう、この捕獲方法を否定することに躊躇し、しばし無言になっていたのかも知れない。
「まず、網が濠の底まで届いているのか疑問だ」
「お城の濠と言うのは、相当深いものなのですか?」
研水の質問に対して、景山は小さく笑った。
「濠の深さは戦において重要な機密となるため、知る者はほとんどいまい。
江戸のお城の濠の深さなど私も知らぬ。
研水殿が知っているとなれば、拘束し、話の出所はどこかと、拷問することになるが」
「い、いえ、知りませぬ!
知りたいとも思いませぬ!」
景山がからかっていると分かっても、拷問と聞いて研水は震えあがった。
「濠というのは、そこまで深くない」
研水の反応に満足そうな顔をした後、景山が話を続ける。
もはや聞きたくは無かったが、研水がたずねた手前、聞かざるを得ない。
「攻め込む敵兵が沈めばよいのだから、せいぜい1間半(2.73m)から2間(3.64m)もあれば十分だ。
ただ、底には畝がある」
「畝……でございますか?」
研水は怪訝な顔になった。
畝というのは、畑で作物を植える際、土を直線状に盛った部分のことである。
それが濠の底にあると言われても意味が分からなかった。
「畑の畝ではない」
研水の疑問を見抜いたように景山が言う。
「土を固めて盛り上げた道だ。
濠の底には、畝と呼ばれる細い道が、幾つか作られている」
「道があるのですか?」
研水は驚いた。
濠の底に道があるなど、思ってもみなかった話である。
「たとえば、水源を閉ざされたり、日照りが長く続いたりした場合、濠の水位が大きく下がり、歩いて渡れるようになるかも知れぬ」
「はい」
研水は、そういう濠を思い浮かべた。
「水位が下がった濠を覗いてみれば、そこに道があるのだ。
人ひとりがようやく通れるほどに細いが、その道は城にまで伸びておる。
道の左右は深くなり、泥が溜まっていよう。
落ちれば、腰まで埋まって身動きができぬかも知れぬ。
さて、研水殿なら、どうやって城に攻め込む?」
「それは、もちろん、その道を通って、城に攻め込みます」
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