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呼び掛け・Ⅱ

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 景山は、人々に向かって再び口を開いた。
 「我らが化け物を倒した後、人面鳥の化け物は、さらに二匹、姿を見せた。
 それを討ち取ったのは、一人の剣術使いであった」
 先ほどのように、誰にともなく言い訳をするような喋り方ではなく、集まった人々に語り掛けている。

 「その者は、千葉周作と名乗った。
 誰か、この者を知らぬか?」
 景山が問うたが、誰も答える者は無い。
 「奉行所でも探しておるが、未だ見つからぬ。
知る者がいれば、後日もよい、南町奉行所に届け出てもらいたい」

 「好き好んで奉行所に行くヤツはおらんわ」
 後藤が横槍を入れると、人々の中から小さな笑い声が湧く。
 「千葉周作なる者の所在が分かれば、この研水殿に伝えてくれ。
 さすれば、我らに伝わる」
 研水に断りなく、後藤が告げた。
 
 そして後藤は、集まった人々を改めて見回した。
 「先日、浅草寺に現れた麒麟についての話は、多くの者が耳にしたであろう。
 武装した旗本勢六百名が立ち向かい、およそ百名もの死者を出した。
 怪我人は、その数倍である」
人々は先ほどまでとは違い、静まり返る。

「そなたたち市井の者が、我ら武士に対し、色々と含むものがあることは知っておる。
命を落とした旗本にしても、褒美、出世のため、自ら望んで戦ったのであろうと言われればそれまでだ。
だか、それと同じほどに、この江戸の町を怪物に蹂躙されてなるものかと言う気概があったことは間違いない。
そのために、麒麟に挑み、死んでいったのだ」
後藤はひとつ間を置いて続けた。

「麒麟は姿をくらましたままである。
 我ら奉行所は、次こそ、麒麟を討つ。
 職務である。
 褒美のためである。
 出世のためである。
 そして、この江戸を守るためである」
 人々は黙り込んで聞いている。
 
 「しかし、死闘になろう。
 奉行所が壊滅するかも知れぬ……。
 そなたたち市井の者に頼むことは、筋違いであることは理解しておる。
 だが、それでも力を貸してくれる者がいるなら、共に江戸を守ろう」

……これは、人材登用ではないのか。
後藤の呼び掛けの意味に気付いた研水は、玄白の屋敷を出て、ここに来るまでの間、景山と後藤が交わしていた不可解な会話を思い出した。
……あれは、このことだったのか。
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