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旗本の敗因・Ⅰ
しおりを挟む「老中の言われる通り、江戸の治安を守るは、町奉行の役目である。
我らは、死力を尽くして事に当たる決意だ。
だが、敵は旗本勢600を蹴散らした化け物、無策で挑んでも勝ち目はない。
そこで、研水殿に、ぜひ協力を願いたい」
……あの話か。
研水は思い出した。
「……そ、それは、先日、玄白先生の自宅でお話しされた、私を囮とするという話でございましょうか?」
景山に問う声が、わずかに震える。
「……その通りだ」
少し間を置き、景山が頷いた。
研水は無言になった。
誰かが「お前の身の安全を奉行所で守ろうと言うのだ」、などと適当なことを言い出せば、断固拒絶しようと決めた。
しかし、景山、後藤、佐竹の誰もが、研水を騙すような言葉を口にしなかった。
「……具体的には、どのようにすれば?」
研水が問う。
「あのときに、話した通りだ。
まず、研水殿には、南奉行所内の建物に身を移してもらう。
その後、江戸中に噂を流す。
江戸を騒がす怪物を造りあげたのは、蘭学医の戸田研水だ。
戸田研水は捕縛され、奉行所で監禁されている。
いや、そうではない。戸田研水の天才を惜しみ、奉行所、幕府は、研水を貴人のように扱い、敬っておるらしい……。
このような噂だ」
景山の話を聞き、研水は気が重くなった。
町の人々が噂を信じれば、研水を罵り、嫌悪するであろう。
そして、怪物を造り上げたであろう平賀源内が、この噂を聞けば……。
「平賀源内がこの噂を耳にすれば、必ずや怪物を使い、奉行所を襲って、研水殿を殺害しようとするはずだ。
研水殿が怪物に殺されれば、噂は出鱈目だったと言うことが知れる。
使う怪物は、やはり人目を引く、巨大なぐりふぉむであろう」
「ぐりふぉむを誘き出したとして、退治できる算段はついているのでございますか?」
失礼な質問であるが、研水は思わず聞いてしまった。
「旗本勢の敗因の一つは……」
答えたのは、後藤であった。
「現れた怪物に対して、軍を差し向けたことである」
「……?」
研水は、後藤の言う意味が分からなかった。
現れたぐりふぉむを倒すために、旗本は集められたのではないのか?
「怪物が現れたと報せを受け、慌てて駆け付けたため、兵の数は半分ほどであったと言う。
また、どのような場所で戦うことになるかが予測できていなかったため、事前準備が雑になっていた。
その結果、現場では指揮系統が乱れ、ついには各自がばらばらに斬り込み、成す術も無く殺されていった。
我らは違う。
充分に準備を整え、怪物を奉行所に呼び込み、そこで退治をする」
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