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怪物合戦・Ⅰ

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 「今朝、新たに五人が息を引き取り、討伐戦に参じた旗本の戦死者は九十七人にのぼった。
 大怪我をした者は、百を超えておる」
 景山がそう言った。
 六郎から聞いてはいたが、凄まじい損害であった。
 巨大だったとは言え、一頭の生き物が、わずか一刻足らずの間に行ったことなのである。
 ネズミの群の中に、興奮した猫を投げ込んだような惨状であった。

 「事を進めた老中首座の土井様は、上様から厳しいお叱りを受け、また大将として軍を率いた村沢様は、蟄居を命じられた。
 ……だが、とんでもないと申したのは、このことではない」
 景山は、厳しい顔のままで続けた。

 「この後、奉行所に下された沙汰だ……」
 「我らはな、旗本たちは幕府の威信にかけ、再び軍を編成し、次こそ、あの化け物を退治すると思っておったのだ」
 後藤が口を挟む。
 景山はチラリと後藤を睨んだが、説明の補足になると思ったのか、とがめることはせず、研水に視線を戻した。

 「しかし、協議を重ねた老中たちは、今回の怪物騒動を「合戦」と断定し、旗本たちをみな、本来の役目に戻すと決めてしまった」
 「本来の役目……とは、なんでございましょう?」
 研水は遠慮がちに聞いた。
 まだ話がよく見えてこない。

 「合戦において、旗本本来の役目とは、本陣備え。
 上様をお守りすることである」
 研水の質問に、景山が答えた。

 「しかし、怪物討伐を合戦と位置付けるなど、強引にもほどがあるわな」
 「後藤!
 つまらぬことを申すな!」
 軽口を入れた後藤に対し、佐竹が怖い顔で叱責した。

 「佐竹様。
 ここにいるのは、我ら四人のみでございます。
 建前は抜きにして話した方が、研水殿にも伝わりやすいでしょう」
 後藤は、佐竹の叱責をいなすように返した。

 ……我ら四人か。
 ……私も入っているのだな。
 研水は、後藤の言う「我ら」の数に、自分が入っていることを不安に感じた。

 「旗本が大敗したことより、あの怪物が空を飛んで逃げたことが問題であったのだ」
 後藤が、研水に向かって言う。
 「景山が討った人面鳥も、空を飛んでおったな。
 つまり、江戸を騒がす化け物の中には、お城の濠を飛んで渡り、上様のおられる本丸御殿へ降り立つことの出来るものがいる」

 「それは……」
 研水は唾を飲み込んだ。
 それは確かに大問題であった。
 城内に怪物が現れ、上様に万が一のことがあれば大変なことになる。
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