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佐竹の理解・Ⅰ

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 「いやいや、そういう意味ではありますまい」
 助け舟を出してくれたのは後藤であった。
 怪訝な顔をしたままの佐竹に対して、説明を始める。

 「佐竹様は、冨田流を学び、免許皆伝の腕前をお持ちでございますな」
 「うむ」
 自慢の一つなのであろう、佐竹の顔に嬉しそうな笑みが浮いた。
 冨田流とは、室町時代初期に生まれた中条流を源流とする剣術で、小太刀(脇差)の扱いが優れていることで有名な流派である。
 
 「何度か小太刀の技を見せていただきましたが、あれは見事なものでございました。
 あれほどの技前は、滅多に見れるものではございませぬ」
 「そうか」
 佐竹の笑みが広がり、隠せないほどの満面の笑みとなった。
 悪い人物では無いのであろう。

 「あの技を農民町民どもに披露すれば、やはり、驚くことでございましょう。
 しかし、剣の何たるかを知らぬ者たちの哀しさ、おそらく、その驚きとは……」
 後藤は、この言葉は農民町民のものだと言うように声音を変えた。
 「おお、短い刀で長い刀の相手に勝ったぞ。
 これはびっくりした。凄い凄い」
 後藤は、声音を戻す。
 「まあ、このようなものでございましょうか」

 佐竹の笑みに、戸惑いが混ざった。
 「ま、まあ、剣にうとい者であれば、そのような浅い感想になることは致し方あるまい」
 「しかし、私や景山など、剣に精通する者が見れば違います。
 相手の深い間合いを潰し、自身の間合いに持ち込む拍子と足運び。
 小太刀の長さを悟らせぬ構え。
 室内戦を想定した太刀筋。
 これら妙技に驚き、唸ることになります」
 「ふふ」と、佐竹の笑みから戸惑いが消える。

 「さて、佐竹様。
 佐竹様が小太刀の技を披露する相手としてふさわしいのは、農民町民でしょうか? 
 それとも我ら武士でしょうか?」
 「それは、言うまでもなかろう。
 剣に精通する、おぬしたちである」
 「源内も同様の考えではないかと、研水殿は申しておるのです。
 造り上げた怪物を農民町民に見せ、ただ驚かせるのも良い。
が、やはり、ただ「凄い」ではなく、どれほどの偉業なのかを理解させるには、それなりの知識を持つ者に披露せねばならない。
 そこで目をつけられたのが、蘭学医でもあり、町医でもある研水殿。
 ……と言う話でございます」
 「なるほど」
 納得した佐竹が、改めて研水を見た。
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